不機嫌なお姉様とチビな私 おまけ

 
 今日は、なんてツイてない1日なんだ。



 依頼にあった暴行犯(複数犯だった)を自警団に突き出し、無事任務終了となったので、さっさとギルドに帰ってこんな服を一刻も早く脱ぐつもりでいたのに……。
「もうちょっと2人で歩いて回ろうよ」
 とトオルが急に言い出し、更には「ダメ?」と、首を傾げて上目遣いに見詰められた。
 そんな可愛い顔を見たら――。


 ダメだとは言えないじゃないかっ!


 ガックリと肩を落とし、トオルに「直ぐに帰るんだからな」と、このまま街を回ることを許した。
 しかし、それがそもそもの間違いであった。
 トオルが何と言おうとも、帰ればよかったのだ。



 1時間ほど遊び回り、トオルを抱いて帰り道を歩いている時――。

 早く服を脱ぎたくて早足で歩いていると、向かい側から見知った顔ぶれが近付いて来るのが見えた。
 ん? と目を眇めて前方確認をして――ぎょっと足を止める。
 あ、あれは…………。

 リュシー!?

 長い青銀色の髪が特徴的な見知った人物が、こちらに向かって歩いてくるではないかっ!
 しかも、リュシーの後ろには副隊長に収まったジークとハーシェルがいるし、更にその後ろには“あの”デュレインまでもがいる。
 ダラダラと、背中に嫌な汗が流れ落ちる。


 こんな姿は、絶対に見られたくはない!!!


 俺は方向転換をして、奴らから遠く離れようと思った……のだが。
「あっ! リュシーさぁ〜ん」
 腕の中にいるトオルが、ブンブン手を振りながらリュシーに向かって声を張り上げた。
 んなっ!? と固まる俺に気付く事もなく、トオルは腕の中からピョンと降り、ぷぎゅっ。ぷぎゅっ。ぷぎゅっ。と音を立てながらリュシー達の元へ近付いて行った。
「トオルさん、どおしたんですか? その様な可愛らし格好をして」
「ちょっと仕事で」
 トオルの視線に合わせるように屈んで話すリュシーと、リュシーと楽しそうに話すトオルを見ながら、俺はジリジリと後退する。
 意外な事に、奴らはまだ俺に気付いてはいなかった。
 リュシーはトオルと話していて気付いていないし、ジークとハーシェルとデュレインも、トオルしか見ていない。

 逃げるなら、今しかない!

 トオルを置いて帰っても、奴らがいるから大丈夫だろう。
 俺はその場から離れる為に、そ〜っと回れ右をした。
 しかし――。


「あれぇ? ロズウェルド、どこ行くの?」


 3、4歩歩いた所で、トオルの大きな声が俺を呼び止める。
 ヒクッと口元が引き攣った。
 背中にチクチクと視線が突き刺さる。
 何度も俺を呼ぶトオル。それでも、頑として奴らの方を振り向かないでいると――ポンッと肩に誰かの手が置かれた。
 反射的に振り向いて後悔した。


 そこには、薄ら笑いを浮かべるデュレインがいた。


「似合うじゃない、ロズウェルド」
「……お前のように、好き好んでこんな格好をしている訳じゃない」
 苦虫を噛み潰したような顔でそう言えば、奴はフッと鼻で笑い、
「別に好きで女装をしている訳じゃない。女だと信じて色々と相談をしていた人間が、実は魔法薬で体を『女』に変えていただけの『男』――と気づいた時の、トオルの顔が見たいが為にしている事だよ。――でも、俺が『元の姿』で女装をしたら、お前のように、本物の女のようには見えないだろうがな」
 と言われた。
 返す言葉がなく、怒りでプルプル震える俺に興味が失せたのか、デュレインはさっさと俺から離れてトオルの元に近付いて行った。
「トオル様、お仕事が終わったのなら、このままお家に帰りましょう」
「え? でも……」
「あぁ、大丈夫ですよ。先程あの方に挨拶した時、後の事は任せて帰ってもいいと言っておりましたから」
 言ってねぇよ! と言おうとしたら、デュレインの言葉を信じたトオルが「あ、そうなの? それじゃあロズウェルド、バイバイ!」と手を振る。
 トオルはリュシーとジークと手を繋ぎ、今日あった事を楽しそうに話し、その話を奴らは優しい眼差しで聞きながら、こちらに見向きもせずに行ってしまった。
 そんな奴らの背中を見つめながら、ガヤガヤと賑わう道の真中で、ポツンと1人で立ち尽くす俺。

「…………はぁぁぁぁっ」

 一気に疲れが押し寄せてきた。
 ……こんな時は、酒を飲むに限る。ミシェルを誘って酒でも飲むか。



 ギルドに帰る道を歩きながら、以後、絶対に女装はしないと心の中で固く誓った。
 







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