デュレインの秘密 おまけ

 
 チチチチチ……っと小鳥の囀りが、少し開けている窓の外から聞こえて来た。
 グッスリと眠っていた意識が、ゆっくりと浮上する。
 ……なんか、あったけぇ〜。――ん? でも、体が動か……ない??
 透は寝ぼけながらそんな事を思った。
 それでも、目を閉じながら何とか動かせる手を上げると――。


 むにゅ。


 掌に、とっても柔らかな感触が。
 何だこれ??
 不思議に思いながら指を動かしてみる。


 もみもみもみもみもみ。


 何これ? すっげー柔らかいんですけど!?
 ある意味感動しながら手を動かしていると、

「トオル様は、人の胸を揉むのが趣味なのですか?」

 頭上で聞こえた――聞き慣れた無機質な声に、私は動かしていた手をピタリと止める。
 ポヤポヤしていた意識が一気に覚醒した。
 そ〜っと顔を上げると、目と鼻の先にデュレインさんの顔が……。
「………………」
「………………」
 お互い、黒と琥珀色の瞳を見つめ合って暫し無言に。
 しかし、沈黙を破ったのは私であった。

「ぎょえぇぇぇ!? な、何でデュレインさんと一緒に寝てんの私!?」

 気分は、『酒を飲んで酔い潰れ、次の朝に起きたら、知らない人が隣で寝ていた』的なモノと似ている。
(まぁ、私はそんな事1度も無いが)
 顔を引き攣らせながら、一気に体をデュレインさんから離そうとしたのだが、彼女の腕がガッチリ私の胴に回されているので離れる事が出来なかった。
 何とか離れようともがくが、小さな私の動きなど、デュレインさんの腕一本で簡単に押さえられてしまった。
「デュレインさん、はなれ――」
 キッと顔を上げて声を上げようとしたら、デュレインさんの右手が私の左頬にそっと当てられた。
 顔が固定される。
「トオル様……」
 何故か近づいて来るデュレインさんの顔。
「ほへ?」
 急な事に反応出来ずにいると――。


 デュレインさんの唇が、私の唇と重なった。


 はぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?
 デュレインさんの腕の中でキスをされながら固まっていると、直ぐに唇が離された。そして一言。
「おはようございます」
「あ、おはようございます。……って、そうじゃなくて!」
 キス? 今私はデュレインさんにキスをされたのか!?
「な、な、なに、を……するんですかぁっ!?」
 涙目になりながら睨みつけると、デュレインさは首を傾げてこう言った。


「何って、おはようの挨拶ですが?」


「…………………………………………は?」
 彼女の言っている意味が分からない。
 私は自分の耳がおかしくなったのかと思った。おはようの挨拶?
 何を言ってんのこの人? 的な目でデュレインさんを見ると、彼女はふぅ〜っと何故か溜息を吐いた。
「トオル様。トオル様は、なぜ私がトオル様と一緒に寝ているのか分かりますか?」
「…………いえ」
「私は、疲れて眠ってしまったトオル様を抱いてベッドまでお運びしました。その時、『1人で寝るのは嫌』と言われましたので、私が一緒に添い寝をする事になったんです」
「はぁ!? 私がそんな事を言ったんですか? うっそだぁー」
「いいえ、本当です。それから、寝る前にトオル様から私に「おやすみぃ、でゅー」と言って――」


 おやすみの『ちゅー』をして来たんですよ。


「ぶっ!?」
 あまりのぶっ飛んだ内容に、吹き出した。
 は? 私からデュレインさんに、おやすみのちゅーをしたとな?
 しかも、『でゅー』って……『でゅー』って何さ!?
 寝起きから頭が混乱する事が起き過ぎて、私の脳内は既に許容範囲外に。
「いや、それは……すみませんでした」
 自分がそんな事をやったとは思えないが、ベッドに入った記憶が全く無いし、もしかしたら寝ぼけてそんな事をしてしまった……? と考え、一応謝っておいた。
「えぇ〜っと。先程のキスは、何の意味も無い、唯の朝の挨拶なんですよね?」
「はい。おはようのちゅーです」
「……あ、そうですか」
 表情を変えずにそう答えるデュレインさんに、私はガックリと項垂れた。
 おやすみのキスをしたから、おはようのキスもしたと言いたいのだろう。
 そんなこんなで、私の異世界でのセカンドキスもデュレインさんに奪われた。……いや、正確には自分からしたのか?
 溜息を吐いていると、体に回していた腕をデュレインさんはそっと外した。
「それでは、私はこれから朝食の準備をしますので、失礼いたします」
 起き上がると、デュレインさんは服の皺を直しながらベッドを出た。そして、私の頭を一撫でする。
「眠い様でしたら、もう少し眠っていてもかまいません」
 そう言って部屋から出ていった。


「はぁ〜っ。何だったんだ」
 ベッドの中で、大の字になりながら天井を見詰める。
 暫く天井を見ていたのだが、思いついたように腕を動かして、そっと指を唇に当てた。
「また……デュレインさんとキスしちゃった」
 唇を触りながらボーッとしていたのだが、ある事に気が付いた。
 私は『キス』をしたと思っていたのだが、デュレインさんは『ちゅー』をしたと言った。
 つーことは、なにか?


 “アレ”はデュレインさんにとって『キス』では無く、子供の戯れみたいな『ちゅー』だと思っていると言う事か?


 何故か、ショックだった。
 意味が分からない胸のモヤモヤ感に、ベッドの上で数分唸っていたが、暫くしてからムクリと起き上がる。
「寝たのに、何でこんなに倦怠感が溜まってるんだろう……」
 くわっと大きな欠伸が出た。口元を手で押さえようとしたら、左手に嵌めている指輪に目がいった。
「え? なにこれ!?」
 左手を顔の正面に持って来て指輪を眺める。
「…………宝石?」
 琥珀色の石に、銀の色が所々混ざっている、見た事も無い綺麗な石。それが、突然人差し指に嵌めていた指輪にくっ付いていた。
 はて、寝てる間に一体何があったんだ? と首を傾げる。
「…………全く分からん」
 私はベッドから飛び降りた。
 こうなったら、下にいるデュレインさんに色々聞くしかない!
 ルルから貰った飴を食べてから全く記憶が無い。その事もついでに聞こうと私は部屋を出た。

「デュレインさーん! なんか、指輪がバージョンアップしてるんですけどぉ!?」

 








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