「お前……何でここに……?」


 急に入って来た女性を2人でポカンとした表情で見上げていると、その人はアレクさんの言葉を無視して、胸元まで伸ばされているアレクさんと同じプラチナシルバーの髪の毛を、溜息をつきながら掻き上げた。
 そして、細長くて綺麗に手入れされている眉毛をギュッと寄せて、アマゾナイトの様な瞳で私達を睨み付けて来た。


 び……美人さんが怒ると本当に怖い。


 しかも、そんな人がですよ? そんな人が、怖い顔をしてドカドカと足音を立てながら近付いて来たと思ったら、長く綺麗に伸ばされた爪(鋭そう!)がやたらと目に入る手をこちらに伸ばしてくるではないですか!?
 叩かれる! と思った私がギュッと目を瞑ると───。

 両脇に手が添えられる感覚がしたと思ったら、体がフワリと浮いた。

「にゃっ!?」
 驚いて変な声が出てしまいました。
 何事かと思いながら急いで目を開けると、私の目の前には顔を引き攣らせたアレクさんがいた。
「おいっ!」
「うっさい変態。嫌がる未成年者に、何てことしているのよ貴方は」
 慌てて手を伸ばして私を取り戻そうとするアレクさんに、冷たい声を出しながら体を捻ってその手から私を遠ざける。
 そして、
「怖い思いをしたのね……でも、私が来たからもう大丈夫よ?」
 と、心配そうな表情をしながら顔を覗かれた。
 後ろから抱き付かれ───胸の下と腰辺りに回された手にギュッと抱きしめられた私は、目をぱちぱち瞬かせる。


 私をすっぽりと包む、ガッチリとした腕と大きな掌。(ん?)
 背中に当たる、固い胸。(あれ?)
 見た目は細いけど、意外に広い肩や腰回り。(あれれ?)
 見上げた時にチラりと見えた、喉の『出っ張り』。(あれれれ?)
 女性にしては、少し低いハスキーな声。(えーっと?)
 そして、密着した体からは、男性が使いそうな香水の匂いがフワリと香ってきた。(…………これはもしや?)


「こんな涙目になっちゃって。可哀想に」
 ぽや〜っと頭の中で考え事をしていたら、クルリと身体の向きを変えられ───それから、顎を指で持ち上げられて目尻に溜まった涙を親指で拭き取られた。
「……あ」
 顔を指で持ち上げられ、“あるモノ”を発見してしまった。


 ……あ……顎の下に、数本の“剃り残し”が!?


 女性では有り得ない太さの“剃り残し”に、この人が『男性』なのだと気付いてしまいました。
 その事に気付いてから、私は今の状況にハタと気付く。
 見知らぬ男性に腰に手を回せれながら密接にくっ付き合い、顔を寄せられているのだ。
 カァ〜っと顔が熱くなる。
「あ、あの、あの、ちょっと離れ……」
「クス……かわいぃ。真っ赤になって……照れてるのかしら?」
 どうやら、見た目や話し方だけで女性だと決めつけていましたが……れっきとした男性だったみたいです。
 しかし……何故でしょう?


 変態の魔の手から助けてくれた方のお顔が……段々近付いて来るのですが……。


 いつの間にか移動していた手が、私の両頬に添えられた。
 そして、添えられている手に少しだけ力が入り、顔を上にクイッと上げられる。
 眼の前に広がる美人さんのお顔が、少しだけ傾いた。

 ───あ、唇の左端にホクロを発見。うわぁ、睫毛なっが!

 近付いて来る美人さんのホクロなどを見ながら、色っぽいなぁ〜と現実逃避をしていたら。


「お前、いいがげんにしろよ」


 初めて聞く、アレクさんの不機嫌さを滲ませた声が聞こえて来た───と、思ったら。
「ふぎゅっ!?」
 お腹に急激な圧迫を受けて、変な声が出てしまいました。
 くるじぃ……と涙目になっていると。


 いつも嗅ぎ慣れている香水の匂いに包まれる。


 そう、私はアレクさんの腕の中に舞い戻っていたのであった。
 抱き締め慣れた腕の感覚に、ホッと身体の力が抜けた。
   アレクさんの腕の中にいる私と、不機嫌さMAX! なアレクさんの顔を交互に見たその人は。
「あら……オホホホホ! 私とした事が、その子の余りにも初な反応に、うっかり『もう一つの顔』が出てきちゃったみたい」
「何がオホホホホ! だ! 人の彼女に何をする気だったんだよ!!」
「え゛ーっ!? この子が彼女!? ……アンタ、ドMだけじゃなくて、ロリコン変態でもあった!? い゛ーやぁー! 気持ち悪っ!!」
「だれがロリコンだ! 琴海ちゃんはこんな幼くも可愛らしい外見をしていても、22歳の成人女性だ」
「うっそ…………まだ、16〜17歳だと思ってたわ」
 私を見て、心底驚いたと言う顔をする人物。失敬な。
 どう聞いていても、私を貶しているんですか? と言いたくなるような話し合いをしている2人に、私は溜息をつきながら口を開いた。
「あの、アレクさん、この方はどなたなんですか?」
 至極真っ当な事を言った私に、アレクさんはやっと説明し忘れていることに気付いたらしい。
 目の前の人物を溜息をつきながら説明してくれた。


「コイツは、ディミトリ・シーヴァー。趣味が女遊びと女装と言う───俺の従兄弟」


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