グビッ、グビッ、グビッ……ぷっはぁ〜!!
と、息を吐き出しながら、半分ほどまで一気に飲み干したグラスをテーブルの上に置けば、「コレをここまで勢い良く飲む子、初めてよ」と感心されてしまった。
そうですか? 喉が乾いていたんです。と言いながら、もう少し女らしく飲めば良かったかしら? と思っていると、丁度良く頼んでいた食べ物が運ばれて来た。
良い匂いをする食べ物を前にして、口の中の唾が大量生産される。
「さっ、たぁ〜んとお食べ」
取り皿にせっせと盛り付けるディリーさん。
本家本元の女である私よりも女らしいその姿と振る舞い、気配りに、これでいいのか私と心の中で突っ込むも、美味しそうな食べ物を前にした私の思考は直ぐに霧散した。
それからは、美味しい食事に舌鼓を打ちつつ、レモンを絞ってスッキリとした飲み物を片手に持って、ディリーさんと2人で楽しい時間を過ごしていた。
しかし、カラになったグラスを取り替えて新しいグラスが来た頃になると───。
なんか……熱くなってきた……かなぁ?
はふぅ、と息をつきつつ、ぱたぱたと手で顔を扇ぐ。
ジャケットを脱いで、ワイシャツのボダンを上から数個外し、躰の熱を逃そうとするも中々熱さは収まらない。
「……琴海、あなた酔ってるでしょ」
「ふぇ? 酔ってるぅ?」
胸元ぎりぎりまで寛げたワイシャツに人差し指を引っ掛け、ぱたぱたと躰に空気を送っていたら、ディリーさんがちょっと心配そうな顔でそんな事を言って来た。
酔う? アイスティーを飲んで??
ないないない! と私は笑いながら手を振った。
「んもぅ、ディリーさんったら! うふふふ〜」
何だろう。なんだかよく分かんないんだけど、笑いが止まらない。
そんな私を見たディリーさんは「完全に酔っぱらいね」と呟いていたが、私の耳には入って来なかった。
「失敗したわ……飲ませるんじゃなかった」
ディリーさんはそう言うと、立ち上がって私が座っている椅子の横の椅子に腰掛けた。
「ほら琴海、女の子がそんな格好しちゃ、はしたないでしょ?」
「でも、熱いんですもん」
「もん、じゃありません。ほら、こっち向いて」
「むー」
ポワポワとする思考の向こうで、ディリーさんがテキパキと私の胸元のボタンを締めていく。
長い爪、邪魔じゃないかな〜と思いながら、ふと、顔を上げる───と。
ぷっくりぷるるんっ! と効果音が聞こえて来そうな、魅惑的な唇が目の前にあった。
ドキドキと、胸が高鳴る。
何故かしら……ディリーさんの唇を見ていると……。
ポーッとしながら唇を見詰めいると、その視線に気付いたディリーさんが、ん? と首を傾げた。
「どうしたの?」
「……気持ち良さそう、です」
「え? なんですって───んむぅ!?」
ディリーさんの言葉が途中で途切れる事となった。
何故なら、それは……。
その魅惑的な唇に、むちゅぅ〜っ! と熱いキッスをしていたからであります!
がばちょっ、と意外と太い首に抱き付き唇同士を合わせ、はむっ、と下唇を甘噛みすると、ディリーさんはぎょっとしたように私の肩に手を置き、上半身を離した。
「っぷはぁっ!? ……こ、琴海、あなた、な、なにをして……」
「やぁ〜ん。ディリーさんの唇、とっても気持ちいぃんですもん」
「だから、もん、じゃないでしょ!?」
魅惑的な誘惑に勝てなかった私は、ディリーさんの襟首をグイッと掴み自分に引き寄せ───少し首を傾げながら「ん〜っ!」と顔をディリーさんの顔へと近付ける。
私の少し開いた唇の間から覗く赤い舌を見たディリーさんが、ごくっと息を呑む音が聞こえた。
「あ、いやいやいや。そうじゃなくて! ちょっと、と言うか、流石にそれはヤバイでしょ!?」
私に言ってるのか、自分に言い聞かせているのか分からない呟きを発するディリーさん。
ぶんぶんと首を降って、頭の中から何かを振り落とそうとしているが、私が「でぃりーさん、ちゅー……して?」と下から覗き込むようにして囁けば、ビクッと体を固まらせた。
動きを止めたディリーさんにこれ幸いと、私はそのぷっくりとした下唇をパクっと食べるように合わせた。
うわぁー、ふわふわしてるぅ。どうやったらこんな唇になれるんだろう。
そんな事を思いながら、私は更に体を密着させるように近付くと、いままでワタワタとしていたディリーさんが───動いた。
「仕掛けたのは……琴海よ」
ディリーさんはが私の頬を包み込んでから……その長い指で唇をスッと撫で上げる。
真剣な顔をしたディリーさんが顔を少し傾け、私に近寄って来る。
ぷるんっぷるんな唇をもっと堪能出来るぅ〜!!
キャッ嬉しい! と心の中で叫びながら、私もディリーさんに習って目を瞑った瞬間。
私達がいる個室の扉が大きな音を立てて開いた。
何事だと2人で音がした方を見れば───。
そこには、息を切らしながら私達を険しい顔で睨みつけているアレクさんがいた。
ポワポワした頭で、あれ? なんでアレクさんがここにいるのかな〜。と思っていたら、アレクさんは英語でディリーさんと話しだした。
『おい……お前何してんだよ』
『何って?』
『人の彼女に何をしているんだと聞いているんだよ!』
『ん〜。ハッキリ言えば、キス、かしら?』
『はぁ゛!?』
『ちょっと〜、誤解しないでよ? 先に誘ってきたのは琴海よ。まぁ、気持ちいい思いはさせてもらったけどね』
『てめぇ……』
自分の唇に指を当てながらニヤリと笑うディリーさんに、怒りを顕にしたアレクさんが拳を握りながら近づいて来る。
そんなアレクさんを見た私は……怒っていた。
なぜなら、ディリーさんのぷっくりぷるんっぷるんな唇を堪能出来なかっからである。
後から思い出してもこの時の私はどうにかしてたんだと思う……いや、酔ってはいたんだけどね。
よって、酔っ払っている私は近寄って来るアレクさんにビシィッと指を差してこう叫んでいたのであった。
「アレクさん、ちょっとそこに正座しなさいっ!」