指を絡め、恋人繋ぎでドキドキしながら歩いていれば……。

 あっという間に今日の目的地でもある遊園地に着いてしまった。


 思っていたより早く着いたな〜と思いながら、チケットを買うのに財布を取り出す。
 しかし、ここは俺が出すよとアレクさんに止められてしまった。
 初めは、悪いのでいいですよと断っていたのだが、誘ったのは俺だからと強く言われ――ここはありがたく、お金を出してもらうことにする。
 そんなこんなで、アレクさんと共に遊園地の中に入れば。

「……人が多いですね」

 休日だからか、家族連れだったり、私達みたいなカップルが溢れ返っている。
 見渡す限り、人・人・人。

 ……おぇっ。

 人酔いしそうです。
 クラクラと目眩を起こしかけていると、
「琴海ちゃん、どこから行く?」
 ギュッと手に力を入れ直したアレクさんが、パンフレットを見ながら聞いてくる。
 私は軽く頭を振ってから、アレクさんが持っているパンフレットの中を覗いてみた。
 遊園地の広大な敷地内には、絶叫系のジェットコースター、くるくる回るメリーゴーランドやティーカップ、その他には幽霊が出てきそうなホラーハウスや、恋人達なら誰でも一度は乗るとは思う巨大観覧車等が目に付いた。
「どこか行きたい場所とか、乗りたい物とかある?」
「あ、あの! それじゃあ、私、これがいいです!」
 それではと、私は1番興味が惹かれたモノに指を差した。
「…………これ?」
「はい!」
「………………」

 何故かアレクさんの表情が固い。

「どうかしたんですか?」
「いや、まさか、琴海ちゃんがこう言ったモノが好きだとは思わなくて」
「小さな頃は苦手だったんですが、大人になるにつれて好きになりました」


 だって、人目を全く気にせずに、思いっっっ切り叫べるんだもん。


 そう、私が乗りたいモノは絶叫系だったのです。
 一瞬、初めてのデートにはティーカップとかの方がいいかな? とか思ったけど、同じ所をぐるぐる回っていると具合が悪くなってしまう。
 酔って彼氏の前でリバース(吐く)するよりは、そっちの方がいいでしょう。
 ――と、言う事で絶叫系を選んだんだけど……。
「あの、ダメ……でしょうか?」
 ジーッとパンフレットを見詰める彼に声を掛ければ、即座にニッコリ笑って大丈夫だよと言う。
「ホントですか?」
「あぁ。それじゃあ、早速そちらへ行こうか」
「はい!」
 アレクさんはパンフレットを畳んでポケットの中へと仕舞うと、もう一度私の手を繋ぎ直して、絶叫系マシーンの方へと歩いて行った。




「っくうぅ〜。楽しかったですぅ!」

 色々なジェットコースターを6回連続で乗った後――私は出口付近で身悶えていた。
 普段溜まっていたストレスを、叫んで解消したようなものだ。
 正に、

 爽・快・感!

「アレクさんも楽しかったですか?」
「………………あぁ、」
 振り向けば、表情は微笑んだままなのに、顔色が心なしか悪い。

 絶叫系は嫌いでは無いみたいだが、流石に連続6回は効いたようだ。

「琴海ちゃん、次は……ちょっと違う物を見て回らない?」
「あ、はい。そうですね」
 アレクさんはそう言うと、ポケットから素早くパンフレットを取り出し、絶叫系の近くに何があるのか確認する。
「あぁ、この直ぐ側にホラーハウスがあるな」
 その言葉に私は固まる。

 私は苦手な物が何個かある。

 その内の1つが『暗い所』。
 どれだけ苦手かと言うと――夜寝る時には、ベッドサイドに小さなスタンドライトを置いて、部屋を真っ暗な状態には絶対にしないくらい、『暗い』のは苦手なのだ。
 なのに――。


 ホラーハウス=『真っ暗な空間』に行くだなんて!?


「さっ、そうと決まれば、早く行こうか」
「いや、あの、私はちょっと……」
「ほら、琴海ちゃん。早く行こう」
「私、ホラーハウスは――」
「ほらほら、離れて歩くと迷子になるよ?」
 手を繋ぐのではなく、私の腰を抱き、アレクさんは人の話を一切聞かずにズンズンと歩き進める。
 手を繋ぐ行為よりも更に密着する体勢に胸がトキメクが――。



 これから行くホラーハウスの事を考えると……違った意味で、私の胸はドキドキしてくるのであった。


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