急に内側に開いたドア。
ドアに足を掛けていた私は、そのままの体勢で室内に倒れ込む。
片手と片足で支えていたダンボールは床に落ち、ファイルがバラバラと散らばる音がした。
うきゃぁぁぁ!?
倒れる! と思った私はギュッと目を瞑りながらも、急いで上げていた足を地に下ろした。
「い゛ぃ……っ」
すると、右足が何か硬いようで柔らかいモノを踏む感触がした。
パンプスの少し太いヒールの部分で何かを、ぐにゅーっと踏んだらしい。
ん? 今なんか頭上から何か聞こえたような?
と思って目を開ける前に、体がスッポリと何か温かいモノに包まれた。
「ほぇ?」
何が起きたんだろうと目を開けて顔を上げると、そこには――。
痛みを堪える様にして顔を顰める、クロフォードさんの顔が直ぐ目の前にあった。
余りにも近くにある整った顔に、ピキンッと固まる。
何? 何が起きているの??
今まで近付きたくても近付けなかった人が、直ぐ目の前に! という思ってもみなかった状況にアワアワしていると、彼が「うぐぅ……っ」と呻いた。
その呻き声にハッと我にかえる。
そろりと、見惚れる様な綺麗な顔から視線を下に向けていくと――まず、私の両手は彼の胸に添えられるようにして置いてあり、それよりも下に視線を落とせば、私の腰周りに彼の腕が回されていた。
ビクビクしながら、視線を更に下――足元の方へと向けると……。
クロフォードさんの足――黒い靴が、私のパンプスのヒールに押しつぶされ、グニャリと変形していた。
ひぃぃいぃぃぃっ!?
さぁーっと顔から血の気が引いた。
だって、今の私は少し前屈みでクロフォードさんに寄り掛かっているので、彼の左足の先に私の全体重が乗っているのだ。
何度か満員電車の中で足を踏まれた経験をした事があるが、あの時の激痛は涙が出るかと思ったほどだ。
「すすす、すみませんっ!」
急いで彼の足から自分の足を退けようと、身体を離そうとしたのだが……何故か、クロフォードさんは、離れようとする私を自分の元に引き寄せた。
体が更に密着する。
頬が上質なスーツの生地に当たり、彼が付けているコロンの香りがフワリと香る。
腰に回されていた腕は、苦しいほどに私を締め付ける。
――何が……起きているの?
呆然としていると、クロフォードさんがフッと息を吐いた。
吐息が旋毛に当たり、体がピクッと反応する。
彼の胸元から頬を離し、ゆっくりと顔を上げると……。
白い肌が薄くピンク色に色付き、少し長い前髪の隙間から見える、綺麗なターコイズブルーの瞳は熱を持ったように潤んでいた。
そして――。
まるで、愛しい恋人を見詰める様な表情で、私を見下ろしていた。
あまりにも色っぽいその表情に、心臓の鼓動が早くなる。
男の人にそんな表情を向けられた事がない私は、この状況をどう対処したらいいのか分からなかった。
暫く2人で無言で見詰め合っていると、彼はゆっくりと瞳を閉じ、艶やかな溜息を落としてこう言った。
「はあぁぁ……気持ちいい。……ねぇ、もっと……強く踏んで?」