「ここに来るのも、久し振りね」
城の門前に立ち、私はふぅっと息を吐く。
今日は、ジークに頼まれてここへやって来たのだが、自分の手に持っている籠をチラリと見やる。
その中には、いろんな種類の布(色は全部黒)が入っていた。
「こればっかりは、私にも出来ないからしょうがないわね」
肩を竦め、門前に控えている騎士に通してもらい、ジークがいる所へと進んで行く。
黒騎士専用の執務室。
繊細な彫刻が施された大きな扉を数回ノックする。
「ジーク。持って来たわよ」
中から声が掛かる前に部屋に入った。
「お? 悪いな、デュレイン」
そんな私を咎めるでもなく、ジークは手元から顔を上げて笑った。
「悪いと思うなら、私に頼まないで頂けないかしら?」
「………えぇ、そうですね。ホ・ン・ト・ウ・に、ごめんなさい」
ジークは顔を引き攣らせながらそう言った。
執務室にはジークの他に、リュシー、ルル、エドがいた。それぞれ、お茶を飲んだり本を読んだりと、好きな事をしていた(仕事はしていない)。
カーリィーとハーシェルは、トオル様と一緒に商店街に買い物をしている為、ここにはいない。
「それにしても、何着作るつもり?」
執務室に黒い布が所狭しと広がる光景に、私は呆れた眼差しでジークを見る。
そう、裁ち鋏で布をちょきちょき切るこの男は、トオル様の体の変化に対応する事が出来る、伸縮自在の服を作っている所だった。
「ん〜……1人、20着は作ってやろうと思ってた」
「………………」
開いた口が塞がらない。
目の前にいるこの男、私が持っている布が入った籠を受け取ると、「お〜。この生地の触り心地いいねぇ〜!」と言って、鼻歌を歌いながら鋏を入れていく。
黒騎士を辞めて、服職人に転職すればいいのでは……?
そう思っている所へ、
「あー……トオル、喜んでくれるかな?」
にやにやしながら、生地を切るジーク。
多分、頭の中で、自分が作った服を着たトオル様に「ありがとう、ジーク! 大好き!!」とかなんとか言われている妄想をしているのだろう。
にやけた顔が、気持ち悪い。
あぁ、何でこんな男にしか魔法服が作れないのかしら。
裁縫は得意だが、魔法を練り込んだ魔法服だけは作る事が出来ないデュレイン。
悔しさが募る。
「……帰るわ」
「ん? あぁ、気を付けてな」
鋏を持ちながら手を振るジークを無視し、執務室を出る。
ジークを見ていて思った事。
・普段から貴公子然とした顔で、周りの婦女子から騒がれているが、トオル様が絡むと途端ににやけた顔になる。
・私が出来ない事を、やすやすとやってのける嫌な奴。
ジークは自分が出来ない事が出来る、私の強力なライバルなのであった。