瑞輝家の人々 3

 
 馨君と創君が加わってから2時間ほど時が経ち───。
 練習をしている皆を見ながら、マネージャーである僕や先輩達は、水分補給のスポーツドリンクやタオル、汗に濡れたシャツの替えを用意しながら(時には怪我をした人の手当をしつつ)広い道場内をチョロチョロと動き回っていた。
 そんな時、道場の端───邪魔にならない場所に置かれていた目覚まし時計が、けたたましい音を立てた。


「おーっし。皆、一時休憩! 昼ご飯にすんぞ〜」


 目覚まし時計を止めた主将がそう言うと、タイミングよく瑞輝主将のお母さんが道場内に入って来た。
「あ、かーさん。かーさん、あのさ、これから昼ご飯にしようと思うんだけど」
「あら、それじゃあちょうどいい時に来たみたいね。もう作ってあるから、呼びに来たところなのよ」
 そこへ、宮瀬副主将が「はいはーい!」と手を上げた。
「要さん、ちなみに今日のメニューは何ですか!」
「うふふ、皆が大好きな牛丼よ」
 その言葉に、女子の皆様方は「やったぁ〜!」と喜ぶ。
 そこへ更に「今日はお肉を大奮発したから、沢山食べてね♪」と付け加えられた時、「よっしゃー!」と雄叫びが上がった。
 皆様の勇まし……とても嬉しそうに悦ぶ姿に僕達が首を傾げていると、鈴木さん(リンリンと言うとぶち切れる人です)が、要さんが作ってくれる料理は大抵美味しいんだけど、牛丼は特に美味なのだと教えてくれた。
 僕達は道場内を一度綺麗に掃除をしてから、瑞輝主将の家へと向かったのであった。




 主将の家はそんなに大きくなかったけど、僕達全員が入れるようにと居間と和室を隔てている扉を外して広い空間が出来上がっていた。
 そこへ、脚の短い長方形の大きなテーブルを3台並べられており、その上にお肉がこん盛りと入った牛丼と、ねぎの味噌汁。小皿に入った沢庵が人数分置かれていた。
 牛丼の美味しそうな匂いに、じゅるりと涎が垂れそうになる。
 机の前に座り、皆でいただきますと手を合わせて箸を取る。
「うまいっ!」
「あら本当? 嬉しいわぁ〜。沢山あるから、一杯食べてね?」
「は───」
「おかわりっ!」
「…………え?」
 僕の言葉に被さるようにして、「おかわり」の声が上がる。


 え、おかわり……? もうおかわり? だって、今食べ始めたよね? 僕、まだ二口も食べてないよ?


 驚いて声が聞こえた方へ顔を向ければ───奥寺さん(BL大好き腐女子っ子)が頬を風船の様に膨らませて、大きな丼を右手で持ち上げていた。
 早っ! 食べるの以上に早くない!?
 そう思っていたら、次々に「おかわり」の声が上がる。
「はいはい、ちょっと待ってね」
 主将のお母さんは大きなお盆で皆の丼を持って台所へと行くと、直ぐに戻って来て皆に並々に盛られた丼を渡していった。
 よくよく見ていると、皆さんの一口がかなり大きい。
 僕の倍以上の量のご飯と肉を箸に取り、口に入れ、五口で飲み込み───胃袋に押し込んでいた。


「あの子達のことは気にしないで、君はゆっくり、自分のペースで食べた方がいいよ?」


 驚いて箸を持ったまま固まっている僕に、後ろから誰かが声を掛けてきた。
 振り向いた僕は……ぎょっと体を引いてしまった。
 何故なら、目の前には───。


 頭にはレースとリボンがふんだんに使われたカチューシャを付けて、同じくレースとリボンが沢山付いているブリッブリの洋服を着た、ゴスロリっ子みたいな女の子がいたからだ。


 丼と箸を持ったまま固まっていると、「あ、双葉ちゃん! その服は新作なの? ちょ〜カワイィ!」と言いながら、主将が僕の目の前にいるゴスロリっ子に近寄って来た。
 僕の側でゴスロリっ子───双葉さんと言う方と主将が、双葉さんが着ている服について熱く語りだしていた。
 その光景を若干引きながら見ていたら、隣に座っていた宮瀬副主将がガツガツと丼の中身を口の中にかき込みながら「アレ、零の姉ちゃん」と教えてくれた。
 本日何度目かの驚き。
 瑞輝副主将と双葉さんは、共に身長が低く可愛らしい顔立ちをしていたが、副主将は黒髪黒目に対し、双葉さんの髪の色は少し色が濃いダークオレンジ色で、瞳の色が蜂蜜色であった。
 染めたり、カラーコンタクトを入れているのかと思ったら、どうやらそうではなく自前らしい。
 瑞輝主将と同じで、瑞輝副主将のお祖母さんが外国の方らしく、お母さんやお兄さん、それに双葉さんはお祖母さんの血を濃く受け継いだみたいだけど、副主将と創君はお祖父さんの血を濃く受け継いだらしい。
 なる程ね〜と思いながら、僕は全く減っていないご飯を口に入れた。
 後から聞いた話なのだが、主将の『可愛い物好き』は双葉さんの影響らしい。
 僕は双葉さんの服を熱心に見詰めて「いいなぁ〜いいなぁ〜」と言っている主将を見ながら、双葉さんと同じ服を着ている主将を想像しかけて……頭を振って即座にやめた。


 うん、食べる事に集中しよう。


 つづく。
 

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