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とあるメイドの日記 6

 
 仕事が終わり、疲れたのでさっさと寮に帰ろうかと廊下を歩いていた時、庭師のエリックに声を掛けられました。
 まだあどけなさが残る、少年から青年へと成長途中の彼は、私を呼び止めたかと思ったら、「え〜」とか「あー」とか「うぅ〜ん」など言いながらモジモジしていました。
 私はその 気持ち悪い 反応を見てピーンっ! と来ましたわ。

 これは告白に間違いない───と。

 案の定、「あ、あの……ずっと前から好きでしたっ!」と真っ赤な顔をしてそんな事を言われましたの。
 私的には、年上の───お洒落で大人な男性が好みなんですが……ふと、思ってしまいました。


 何も知らなさそうな純情少年を一から育て上げるのも、楽しいかもぉ♪


 とは言え、毎日 仕事を鬼のように押し付けてくるメイド長のせいで 仕事が忙しく、そんな事をしていられる余裕はないと首を振り断念。
 純情少年エリックの告白を断ろうと口を開きかけた私でありますが、私の顔を見たエリックは断られると気付いたらしく「僕という人間を分かって欲しいので、今度のお休みに街へ一緒に出掛けませんか? それから返事をください」と言ってきました。
 次の休みは、エルデリア様の新刊小説が発売されるので、それを買ってゆっくり読もうと思っていたので「イヤです」と断ろうとしたのですが、エリックは自分だけ要件をさっさと言うと、ダーッと男子寮へと走って 行きやがった 行ってしまいました。

 あぁ……私の貴重な休日が、1日潰れてしまう事が決定となったようです。


◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇


 そうそう、今日はお屋敷にルル様が来ておりました。
 ルル様は、かの有名なオルディガ家の長姫でございます。
 オルディガ家は十貴族の内、どちらかと言えば下位に位置する家でありますが───。


 隠密、諜報、暗殺、等々を生業とした『裏』の顔を持っていたりします。


 ですから、初めてルル様が当屋敷に来られると分かった時、どれほど恐ろしい人が来るのかとヒヤヒヤしていたのですが。
「こぉ〜んにっちはぁ〜!」
 と、 バカみたいに 明るい声でルル様が入ってきた時、「えっ!? この人がオルディガ家のルル様?」と驚いたものです。
 くりっとした大きな瞳に、ふわふわの長い金髪。そして、可愛らしい笑顔で挨拶され、とっても拍子抜けした記憶がございます。
 以前、メイド仲間と話している時に、オルディガ家は給料や待遇が他家よりも破格に高いけど、何故か長続きがしないと聞いたことがございました。
 オルディガ家独特の『お仕事』のせいかもしれないわね───と言うメイド仲間から聞いた話を思い出しながら、この方は噂に効くオルディガ家の方々とは違うのかもと思った時。


「ルルーっ!」


 遠くの方から、ジークウェル様の怒鳴り声が聞こえてきました。
 普段声を荒げる事をしないジークウェル様の声に驚きつつ、声が聞こえた場所へ恐る恐る行ってみると、そこには───。


 薄紫色の兎と、赤茶色のネズミと、群青色の小鳥が、床におりました。


 何故屋敷の中に兎とネズミと鳥が? と思っていると、何故か黒い騎士服(微妙にリュシーナ様達が着ている物とは違いました)が床にグシャっと置かれているではありませんか。
 薄紫と赤茶色と群青色……。
 ここ最近、そんな『色』を持った人物がこの屋敷に滞在していた気がします。
 私が扉の隙間から覗いていると、ジークウェル様はルル様に説教をしながら解毒薬を渡すように言いましたが、ルル様は「死ぬもんじゃないしぃー、2〜3時間もすれば元に戻るから大丈夫だよ」とあっけらかんとしながら、そうのたまっておりました。
 そういう問題じゃないと怒るジークウェル様の言葉に、私も深く頷きました。


 そう! ルル様は他人の食事や飲み物にこっそりと魔法薬を 入れやがる 入れてしまう 危険人物 御仁だったのです。


 やはり、オルディガ家の人間は恐ろしい人が一杯だと認識を新たにした1日でありました。
 ───余談ですが。
 小動物に変身したお3人方にルル様が「その姿のほうが、レイに可愛がってもらえると思うよぉ?」と言った瞬間、バッと勢い良く彼らの視線がルル様に集まったのには笑えました。
 どんなに高貴な人間であっても、男は男だと分かりました。
 

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