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とあるメイドの日記 7

 
 疲れました。
 今日は……ほんっっっと〜に疲れておりますが、このムシャクシャとした気持ちを晴らすためにも、日記を書こうと思います。



 今日は久々の休日でありましたが、庭師のエリックとお出掛けする約束をしてしまったので、普段より早く起きました。
 正直言って、メンドクサイと思いながら 重い腰を上げて、衣装ダンスの中からそれなりに綺麗な服を取り出て着込み、何時もより少しハッキリ目に化粧を施しました。
 髪型も、普段のお団子頭では無く、昨日の夜にセッセと三つ編みをした髪を解いて、 貧乏パーマ 今流行りの『ふんわりくるくる、お嬢様風』な髪型にバッチリと決めました。
 例え本命以外とのお出掛けとは言え、綺麗に着飾る事に手を抜いたりは致しません。


 さてさて、そんな私がエリックと待ち合わせの場所に向かうと、そこにはもう彼がおりました。
 仕事上、20分前行動が身に付いている私よりも早く着いているという事は、どれだけ早くこの場所にいたのでしょうか。
 まぁ、そんな事は良いとして……。
 そわそわとした感じで辺りを見回している彼に、少し落ち着いたらどうですか? と言いたくなります。


 あんな挙動不審な人物の近くに歩み寄りたくない エリックにどう声を掛けようか悩んでしまいました。


 まぁ、その場に留まっていても仕方がないので、 渋々と 笑顔でエリックの側に行くと、私に気付いたエリックが満面の笑顔で手を振りながら近寄って来るではありませんか!
 その姿を見て、不覚にもワタクシ、彼を可愛いと思ってしまいましたわ。


 しかし、そんな気持ちも直ぐに消え失せました。


「ミリアさん、おはようございます! わぁ〜、私服姿を見るのは初めてなので新鮮です。───って、ミリアさん、うちの母ちゃんと同じ髪飾りを付けてるんですね。色も同じで、お揃いみたいです」
 と言う、私を見た瞬間に発せられたとても微妙な言葉から始まり、
「この場所は、うちの母ちゃんお勧めの観光場所で〜」
 とか、
「ここは、ちょっと手頃な値段で美味しい物が食べられるって、母ちゃんが言ってたんだ」
 とか、
「その髪飾りに使ってる石、ミリアさんの瞳の色と同じで綺麗ですよねぇ。───あ、因みにその隣に置いてある石の色は母ちゃんの髪の色とそっくりです」
 などなどなど……どこに行っても、「母ちゃんが〜」とか「母ちゃんなら〜」と言っているエリックに 超ドン引き 母親を大切にしている男性なのだと分かりましたわ。
 彼の母親は病弱らしく、彼が働く父親に変わって母親を支えて来たと 聞きたくもないのに 教えて下さいました。
 そんな彼に、若いのに偉いわねぇ〜と思っていた私でございますが……。

「あ、母ちゃん! そんな重い物1人で持っちゃ駄目だろ!」

 帰り際───買い物帰りなのか、大きな荷物を持って歩いている女性を見たエリックが大声を出してその女性の元に駆けていきました。
 どうやら、彼の『母ちゃん』のようです。
 遠くにいたのによく気付きましたわね───と思っていると、母親の元からかけ戻って来たエリックは、


「スンマセン。重い物を持っている母ちゃんが心配なんで、今日はここで別れてもいいですか?」


 と言って来ましたのです。
 普通だったら怒るところですが、ワタクシ、大人の女ですので「えぇ、別に構いませんわ。お母様想いでえらいですわね」と言って やりました あげました。
 ちょっと「えらい」と言う部分が棒読みになってしまいましたが悪しからず。


 その後───小さくなるエリックとその母親の背中を見送った後に、1人寂しくトボトボと寮に向かって歩いている私に声を掛けてくれた方がおりました。
 誰だと思いながら振り向くと───なんと、トール様ではございませんか!
 トール様は買い物帰りなのか、お菓子が入った袋を持って私を見下ろしておりました。
 そ・し・て!
「わぁ〜、普段のミリアさんと全然違う! お団子頭も似合っていますけど、そのふわふわの髪型もすっごい可愛いですね!」
 そんじょそこらの男共にも負け無いぐらいの爽やか笑顔で、そんな嬉しい言葉を言って下さいましたの!
 見た目、カッコイイ男性に見えるトール様にそんな事を言われた私は、もうそれだけで良しとしようと思いましたわ。

 こうして、私の貴重な休日は終了したのでありました。


◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇…◇◆…◆◇


 余談ですが。

 トール様と一緒に屋敷へと帰っている途中、今日の出来事を軽く説明すると、「ウゲッ、それってマザコンなんじゃないの?」と言われました。
『まざこん』とはなんぞや? と思っていると、簡潔に「お母さん超大好き人間」と教えて下さいました。
 どうやら、母親に対する執着やら愛着やらが普通の人よりも高いものとのこと。
 トール様も仰っておりましたが、何事も程々が良いと意見が一致致しました。


 やはり、私に似合う男性は───優しくて紳士的で、ある程度お金も持っている、『まざこん』じゃない大人の男だと思いました。
 







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