普通、6人以上もいる怖そうな先輩に、カツアゲされている人を見たらどうするだろう。
見て見ぬ振りをするか、先生を呼びに行ったりするだろう。が、私達はそんな事はしなかった。
零は先輩達に声を掛ける――のではなく、斉藤に話し掛けた。
「よっ、斉藤。助けてほしい?」
壁になっている背中の隙間から、斉藤に向かって手をヒラヒラ振ると、涙ぐんでいた斉藤は「はへ!?」っと変な声を発し、次にはブンブンと頭を縦に振る。
――彼の視線の先にはナデがいた。
確か、斉藤とナデは同中だったはず。と、いうことは――彼女が空手の大会で何度も優勝している事を知っている。
ナデと一緒にいる私達が助けると言っているのだ。斉藤は助かると思ったのだろう。
そんな私達をポカーンと見つめていた先輩達は――。
「おい、聞いたか?」
「聞いた聞いた。助けてほしい? だってよ!?」
ギャーッハッハッハッ!!
と、品のない笑いをした直後、顔つきが変わった。
「テメェーら、いい度胸してんなぁ…」
「コイツに変わって、金、出してくれるってわけ?」
回れ右して、斉藤から私達に体を向けた先輩達は、めっちゃ怒りまくった形相で睨んできた。
普通の生徒だったら竦んでしまっただろうが、透もナデも顔色が変わるわけでもなく――。
「先輩。これ以上斉藤を苛めるの、止めてもらえませんか。貴重な昼休みの時間が無くなるし」
「そうそう。うちら風紀委員なんで、そういうの一応止めないといけないんすよ」
やるなら、うちらが見てない所でして下さい。
かなり問題ありな発言をする。
「「「「………………」」」」
そんな2人に回りは一瞬唖然としていたが、1人がハッと我にかえる。
「ふざけんな! 何が風紀委員だ」
その言葉に、回りも再起動する。
「女だからって、俺らが何もしないと思ってんじゃねーの!?」
「だったら、マジうけんだけど」
ニヤニヤ笑いながらこちらに歩み寄る。
私はすぐさま回りを見る。遠巻きにこちらを見ている生徒がかなりいた。
教室の窓からは、こちらを覗く生徒もいるが、助けは期待しない方がいいだろう。
斜め前を見たら、透に零がへばり付き、「怖〜い。透ちゃん」などとのたまっている。
なーにカワイコぶってるんだか。
そんな時、リーダーっぽい人が透とナデを見てこう言った。
「つーか、こいつらマジで女なのかよ」
私は瞬時に2人の顔を見た。
あっ、ヤバイ……。
「……今、なんつった?」
ゆっくりと腕を組みながら、ナデがそう言う。
「あん? 聞こえなかったのかよ? 男女」
「プッ!! お前ら、ホントは男なんじゃないの? それって女装!?」
「「………………」」
大爆笑する先輩達を無表情に見つめる2人から、私は2、3歩後退する。
零も、透の腕を離して後ろに下がっていた。
そして、
「あっ、ニューハーフか!!」
言ってはならない言葉を、言ってしまった。