高校生編・恐怖の風紀委員 3

 
 髪が短くて長身の為、よく男に間違われるこの2人。
 いつもなら、男と間違われても「まぁ、しょうがないか」ですましているが、あからさまな悪口には敏感に反応する。
 そして今、言ってはならない言葉が飛び出した。

 女装にニューハーフ。

 いまだかつて、彼女達にそんな事を言えた人物がいただろうか? ……いや、いない。

「それだけ?」
 透の静かな声が辺りに響く。
「他に、言う事はないんですか?」
 腰に右手を当ててニッコリ笑っているが、目が笑ってない。
 こっ、こえーっ!!
 2人のあんな顔、目茶苦茶久し振りに見た。
 あれは―

 マジギレ状態の顔だ!!!

「あんなに怒る透ちゃん、久々に見たわ……」
 零の言葉に私も頷く。
「うちらは巻き添えを食らわない様に、離れてよっか」
「そだね」
 私と零は2人から5メートル以上離れた距離から見守る事にする。
「……お、おぃ、お前行けよ」
「えっ、あっ、いや…お前に任せるよ」
 何やら2人のただならぬ様子に、彼らは尻込みしているようだった。
 それを見ていたナデが口を開いた。
「先輩。1つ、提案があるんだけど」
 ナデに皆の視線が集る。
 何を言い出すのかと思って見ると――奴はこう言った。
「うちら空手やってんだけどさぁー。今から試合やんない? んで、うちらが勝ったら、先輩方は斉藤に今後一切関わらない。もし、うちらが負けた場合は、先輩方に5万ずつ払うってのでどう? ――もちろん、うちと透が1人ずつ払うんで、合計金額にすると10万になるけど」
 どうする? と聞かれた彼らは、お互い顔を見合わせると、ニッと笑った。

 10万という大金に目がくらんだらしい。

「あっちゃーっ。バカな人達だなぁ。ナデはともかく、透にまで喧嘩を売るなんて」
「ホントだよねぇ? 私達の中じゃ、透ちゃんが1番強いのに。……知らないって、怖いわぁ〜」
「ホントにね。……うわぁ〜。透のあの顔見てよ。すんげーイキイキした顔をしてやんの。まっ、試合っていう大義名文を得たから、思う存分暴れるよ、あれは」
 空手の有段者である私達は、一般人と喧嘩するなど言語道断な事なのだか、昔から喧嘩を吹っ掛けて来る相手が後を絶たなかったため、私達はある解決策を見つけた。
 どうしてかというと。唯の喧嘩なら、先に仕掛けられたり、私達がどんなに悪くなくても、教師に説教されるからだ。
「相手は格闘家でも何でもないんだぞ」と――。
 言いたい事はわかる。が、男に本気で来られて手加減なんか、出来るわけがない。
 だから私達は、まずは相手に『試合』を申し込み、相手の了承を得てから、叩きのめす事にしたのだ。
『試合』をしたと言うと、ある程度言い訳出来るからだ。



 そして、おバカな彼らは了承する。
「いいぜ、試合しようぜ!!」
「ゼッテェー10万払えよ」
 もう勝った気でいるらしい。
「先輩達も、さっき言った事忘れないで下さいよ」
「あぁ、分かったよ」
「それじゃあ、ルールを説明します。試合は1対1形式で、私と隣にいる西条がやります。そちらも2人選んでください。道具は無しで、それ以外は何でもありでOKです」
 透がそう説明すると、先輩方は「楽勝〜!」と言って笑い合っている。
 それを見ていた透とナデは、視線を合せて二ヤリと笑う。

 
 それを見ていた私は、もう、どっちが悪者なのか分からなくなってきていた。

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