「ちょっとまてぇーいっ!!」
透が1歩足を踏み出した時、どこかからか銅鑼声が聞こえてきた。
「んげ!?」
ナデが声が聞こえた方に首を向けたら、顔を引き攣らせた。
なぜなら――。
「うぉらーっ! お前ら、そこでなぁーにをしておるんだぁっ!!!」
生活指導の華盛(はなざかり)――通称ハナ先が竹刀を振り回しながら、ドタドタと走りながらこちらに向かって来たからだ。
「うーわっ。ハナ先だよ」
零がアッチャーとか言いながら、額に手を当てている。
このハナ先、生活指導兼男子柔道部監督なのだが、何故かいつも竹刀を持っている事で有名だった。
「生活指導のハナ先か……メンドイ奴に見つかったなぁ」
腕を組んで悩んでいると――。
透とナデと先輩2人に竹刀を向け、ハナ先が怒鳴る。
「こんな所で何をしてるんだ! 停学処分になりたくなければ、さっさと自分達の教室へ戻らんか!!」
しかし、そんなハナ先を見ながら、先輩達は鼻で笑う。
「うっせーんだよ、先公」
「俺ら、そこの2人に喧嘩売られたんだよね。それを、『試合』でケリを付けようって決まったんだ。邪魔すんなや」
「なっ、なんだとっ……」
竹刀をわななかせ、顔を真っ赤にさせるハナ先。
場の空気が一気に重くなる。
周りで見物していた生徒達も、「おい、あれはヤベーよ」とか騒いでいる。
「お前、いい度胸―」
「華盛先生!!」
先輩に掴み掛ろうとした時、零がハナ先に声を掛けた。
「先生、実はですね……」
零はハナ先の元に行き、何やらコソコソと話しだしていた。
数秒間、辺りは静まり返る。
そして、体を少し屈めて零の話を聞いていたハナ先は、ゆっくり体を元に戻すと、こう言った。
「俺がその試合の審判をしてやろう」
『……………………』
私だけではなく、周りにいた人全員が自分の耳を疑った。
何をどうしたらそうなるのか……。
ポカーンと口を開けてハナ先を見詰める生徒達。
ただ一人……零だけが、腰に手を当てて不敵に笑っていたのだった。