高校生編・恐怖の風紀委員 6

 
 試合は、思っていた通り呆気なく終わった。


 たいして早くも無いジャブを繰り出しながら、「怖かったら降参したらぁ?」とべらべら喋り続けていつまで経っても攻撃して来ない先輩に、ナデはいい加減飽きたらしく、眉間に皺を寄せながらツカツカと歩み寄り、人間の急所でもある鼻の下に強力な右ストレートを叩きこんだ。
「ぐへっ!?」
 吹っ飛ばされ、地面に伸びる先輩を見たハナ先が試合終了の合図を出す。


 名も知らぬ先輩は、試合開始後2分で倒された。


 周りに集まっていた学生や、倒された仲間の先輩方はギョッと見開いてナデを見る。
「あっけねぇ〜なぁ〜」
 当のナデはと言うと、つまんない試合だったと言いながら私達の元へダラダラと戻って来た。
 そして、透の対戦相手はと言うと――。


「てんめぇー。よくもやりやがったな!!」


 グッタリと伸びている仲間を見て怒り狂っていた。
 いや……やったもなにも、試合なんだから当たり前である。
 そんな先輩に対して、透は表情を変えずに「先生お願いします」と言って試合開始の催促をしていた。
 その周りでは、
「おい、カズ。大丈夫か?」
「しっかりしろー」
「死ぬなぁー」
 外野が騒いでいた。
 どうやら、ナデにやられた人物は『カズ』と言うらしい事が分かった。
 そして――。
「リュウ! ボクシング部エースの実力を見せてやれ」
 だの、
「やっちまえリュウ!」
 だの、
「女でもかまわねぇ、そんな奴はボコっちまえリュウ!!」
 などなど、『リュウ』のオンパレードだったので、相手の名前が『リュウ』である事は分かった。
 仲間からの声援を受けながら、リュウ先輩は「ぜってぇー許さねぇ!」と言ってファイティングポーズを取る。
 透は緊張感も無く、ゆったりとした態度でリュウ先輩を見詰めていた。

「準備はいいな。――それでは、始めっ!」

 ハナ先が竹刀を振りあげた瞬間、透はダッと走り出した。
 元々距離が離れているわけでもなく、3歩で相手の間合いに飛び込む。
 そして、透はタンッと地を蹴って飛んだ。
 ――その間、わずか2秒の出来事。

「なっ!?」

 先輩はギョッと目を見開いた。
 避けなければと思うのだが、急な事に体が動かない。


 ドカッ!


 透の飛び蹴りがリュウの右頬に決まった。
「ぐっ!」
 一瞬目の前が真っ白になったが、そこは何とか踏み止まる。
 開始早々倒れてられっかぁ! と踏ん張る。が――。
 それを見た透は右足を地に着けると、それを軸に、鳩尾辺りに回し蹴りを叩きこんだ。
「ぐえっ」
 ガードが薄くなっていた腹に、突然来た破壊力抜群の衝撃。
 先輩は2m程吹っ飛び、地面に転がった。

「そこまで!」

 蹲って立ち上がる事が出来ない先輩を見たハナ先が、試合終了の声を掛ける。
「……弱っ」
 ゆっくりと左足を降ろした透は、自分が倒した先輩を眺めながらそう呟いた。


 透の試合時間は――わずか10秒であった。

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