第2章 再会 09

 
 フィード君から話を聞き終わった私は、あちらに帰る魔法陣が出来上がるその時まで、ゆっくり異世界観光でもする事にした。
 海外旅行ならぬ、異世界旅行。
 仕事が忙しくてなかなか長期の連休が取れず、旅行なんてなかなか出来なかったので、いい骨休めになる。


「あ〜美味しかった」
 飲み終わったグラスをテーブルに置き、私は一息つく。
 携帯を見ると、時刻はPm20:05。もう夜だから暗くなってもいい頃なのに、窓の外は未だ明るかった。
 どうやら、夏の季節は日照時間がかなり長く、夜の11時を過ぎないと月は出ないそうだ。
 体内時計が狂いそう……。
 そんな事を思いながら、ボーッと窓の外を眺めていると、王子の話し声が聞こえて来た。
 何だろうと思って王子に目を向けると、連絡蝶を指に止めた王子が誰かと話しをしていた。
 一通り話し終えたのか、王子の指から離れると消えてしまった。
「リュシーからの連絡でした。任務が終わって屋敷に戻ったそうです。私達もそろそろ戻りますか?」
「あ、そうですね。でも……」
「ん?」
 クリッとした大きな瞳で私を見上げ、どうしたのと聞いてくる零を見ながら、どうしようかと考える。
 フィード君が付き添っているとはいえ、やっぱり離れるのは嫌だ。かと言って、勝手にリュシーさんの家に連れて行くのも悪い気がするし。
 悶々とそんな事を思いながら零を見ていたら、「レイさんも一緒に来て下さい」と王子が言った。
 その言葉に驚きながら、零も連れて行っていいんですか? と聞く前に、フィード君が慌てた。
「ま、待って下さい。どこにレイを連れて行く気ですか!? さっきも言ったけど、僕はレイを仲間の所に連れて行かないといけないんだ」
 だから、寄り道なんかしたくないと言うフィード君。
 そんな彼に、王子は大丈夫だと手を振った。
「私達はウェーゼン国の黒騎士です。今、連絡蝶を寄越した者の名をリュシーナと言って、黒騎士の隊長をしています」
 今は普通の服を着ていて、黒騎士だとは思わないかもしれませんがね。と笑う王子。
「黒騎士団。それじゃあ……」
「えぇ、リュシーの屋敷にギィースさんもいるので、私達と一緒に来るように伝えてくれと言われました」
「……そうですか。分かりました、それでは、僕達も一緒に連れて行って下さい」



 エルモの店主にお金を払っている途中の王子を待っている時、クイクイッと誰かに裾を引っ張られた。
「零? あ、一緒にリュシーさんの所に行けるね」
「ん? そうだね。駄目って言われても、透ちゃんから離れるつもりは無かったけどね」
 えへへと笑いながら、頬を染める零。

 男がこの顔を見たら、一発で恋に落ちるな。

 そんな事を思いつつ、何で袖を引っ張ったのかを聞くと、
「え? なんにもしてないよ??」
 首を傾げられてしまった。
 それじゃあ誰が?
 首を逆方向に向けると、ルルが私をジーッと見ていた。
「ルル、どうしたの?」
「んとね、リュシーの家に行く前に、私の家に1度寄りたいんだけどいいかな?」
「ルルの家に?」
「うん。このコを家に置いてから、リュシーの家に行きたいの」
 人の顔を見れば「キシャーッ」と威嚇するミュミュットを入れた籠を、胸元で抱き締めたルルが「いいでしょう?」と、上目づかいで私を見る。
 うわぁー。その顔可愛すぎ。
 ほにゃ〜んと顔が緩みそうになった(別に変な趣味は無い)が、あの変な生き物の威嚇声でハッと我にかえる。
「あ、あぁ。私は大丈夫だよ。でも、一応ハーシェルにも聞いてみて」
「うん。わかった」
 ハーシェルぅ〜と言いながら、ブンブンと籠を振り回しながら走り出す。すると、籠に体をぶつけたミュミュットの「グギャッ? フギュ!?」という悲鳴が聞こえてきた。


 少し……ほんの少しだけ、あいつが哀れだと思ってしまった。

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