第3章 ルルの魔法薬 02

 
 目の前に広がる光景に、私は目を見開いて固まってしまった。
 だって、だって、零の頭とお尻から――。


 猫耳と尻尾がはえてる!?


 なぜかキラキラした瞳で私見詰める零の頭からは、まっ白い猫耳が。そして、スカートの裾からは耳と同じ色の長い尻尾が出ていた。
 目の錯覚かと思った。だけど、耳が動いたり、長い尻尾がブンブン左右に動いている所を見ると、錯覚でも何でもない。本物だ。
 そんな猫娘になった零は、自分の体の変化には全く気付いていない様子。
 両手を広げて近づいて来たかと思うと、倒れている私をガバッと抱きあげた。


 ――って、抱きあげたぁ!?


 私と零の身長差は16p以上もある。体重だって、私の方がかなり重い。
 なのに、なのに!! 零は顔色1つ変える事無く、私をヒョイッと軽〜く持ち上げ、抱っこしてしまったのだ!!
 零は私を抱き締めながら尻尾をブンブン振り回した。
「いっやぁ〜ん。透ちゃん可愛いぃー!! この小ささって、小学校に上がる前の身長じゃないかな?」
「ほぇ?」
 この小ささ??
 零の顔から視線をゆっくりと外し、手を顔の前に持ってくると――。
 そこには小さな小さなお手手があった。
 ジーっと目を凝らしてして見てみるが、それはまぎれも無く自分の手である。
「…………縮んでるし」
 自分で自分の口元が引き攣っているのが分かる。
 何だ、何が起きて……って、あぁ。魔法薬を食べちゃったからか。
 可愛いを連呼しながら頬ずりしてくる零に、何とか降ろしてもらい、彼女の横に立つ。
「………………」
「ん? どうしたの? 透ちゃん」
「いや、何て言うか……」
 今までは、何をするにも小さな零を見降ろす感じだったのに、今では顔を上げなきゃ零の顔が見えない。
「ちっせぇ」
 自分で言ってて悲しくなってくる。何で25歳間近にもなって、こんなチビに逆戻りしなきゃならんのだ!? だって、この大きさは、多分4歳くらいの時の身長だ。
 戻るにしたって、せめて10代までじゃない? なのに一桁って……。


 ピッチピチのお肌には戻れたけど、嬉しくない。


「いいじゃん。小さくて可愛いんだからさ♪♪」
「……あんたはいいよね、猫耳と尻尾が生えただけなんだからさ」
 ジト目で零を見上げると、零は目を瞬かしながら耳を少し動かし、そっとそれに手を当て、「うわぁ!? 耳があるぅ。って言うか、しっぽ長!」と呑気に騒いでいた。
 零が舐めてた魔法薬は、白い猫に変身? する薬だったんだろう。けど、直ぐに吐き出したから『耳と尻尾』だけで済んだみたいだ。
 んで、私が食べた魔法薬は、多分『小さくなる』薬で、零やフィード君みたいに直ぐに吐き出しておけば、こんなに小さくなる事は無かったんだろうけど……全部食べちゃったからなぁ。
 ぶっかぶかの服の袖やズボンの裾を何度も折り込み、歩きやすいように調節中。しかし、手が小さいから、今まで何とも思わなかった長い袖を折るのにも悪戦苦闘する。

 あ゛ぁ〜。イライラするっ!!

 面倒になって、グイッと腕を捲った時、ふと、彼が胸を押さえて呻いていた事を思いだした。(今になって)
「そう言えば、フィード君はどうなった?」
 あの尋常じゃない呻き声を思いだした私は、零の後ろに隠れているフィード君の元に急いで駆け寄った。
「大丈夫? フィード君」
「おーい、生きてるかぁ〜?」
 心配するわけでもなく、呑気に声を掛ける零を一睨みし、大丈夫かと彼の肩に手を置いたら――。


「うぎゃぁ〜っ!! ぼぼぼぼ僕を見るな触るな近寄るなーっ!!」


 何故か、胸元を両手でガッチリと隠して、目にも止まらぬ速さで壁際にまで逃げ出した。
「「………………」」
 目をまん丸にしている零と肩に手を置いた格好で固まる私は、何が起きたのか分からず、しばし呆然とする。
 シン……っと静まりかえる部屋な中、先に我に返った零がこちらに背中を向けるフィード君に近づいた。
「なにやってんの? あんた」
「っ!? く、来るなって言ってるだろ!!」
 ビクッと肩を震わせると、その場に蹲り、「こっちに来るな、僕に近づくな!」と怒鳴りつける。
「……ふぅ〜ん……」
「な……なんだ、その目は。って言うか、その手は何だっ!?」
「むっふっふぅ〜♪」
 両手を出し、開いたり閉じたりを繰り返す零を見て、涙声で叫ぶフィード君。そんな彼を見て、ニヤニヤしながら追いつめる零。
 その顔は、天使の顔した悪魔そのものであった。
 フィード君。零みたいな人間にそんな反応したら、嬉々として追いつめるのに決まっているのに……。
 まぁ、苦しそうにしてないし、大丈夫かと思って2人を見ていたら、「ウフフフフ〜♪」と零が不気味な笑いをこぼした。
 来るなぁー!! と叫ぶフィード君を遂に追いつめ、悪魔の化身と化した零は彼の肩をガッシと掴むと、「うおりゃぁーっ」と言って強引に振り向かせる。
 そして、私達が目にしたものは――。


 Fカップ?


 それが、真っ先に浮かんだ言葉だった。
 ガックリと項垂れるフィード君の胸は……物凄くデカくなっていた。
 胸元のボタンがはち切れそうになっている。
 ポッカーンと口を開けながら、零と2人でフィード君の胸を見ているしか出来なかった。

「終わった……」

 シクシクと涙を流すフィード君が、ポツリとそう言った。

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