第4章 黒騎士 05

 
「デュレインさんにキスされたら……こうも変わるのなのか……」
「いや……キスじゃなくて、封印を解いたから、だから」
 腕を見ながら呟く私に、ジークさんが右手を振って否定した。


 今の私の左腕には、あの落書きした様なものではなく、黒くて細い線が枝分かれに中指から肘上までに巻き付く様にあって、まるでオシャレなタトゥーをしているみたいだった。手の甲の中心には、スペードの様な形をしたものの下に、2本の細長い剣がクロスしてある紋章みたいなものがある。
 納得した様なしてない様な……そんな顔をした零やルルやエド、それにカーリィー君を何とか宥めて椅子に座りなおした私達。
 新しくデュレインさんに出してもらった飲み物を飲みながら、もう一度“紋様を持つ者”について話し合っていた。


「それで、これがあると、どうして『王より貴い存在』になるんですか?」
 私は腕をリュシーさんに見せる様に聞く。
「まず、“紋様を持つ者”はトオルさんやレイさんの様に、体の一部に紋様が現れた者の事を言ます」
 リュシーさんは私の腕を見詰めながら、“紋様を持つ者”について話してくれた。
「“紋様を持つ者”は、我が国ウェーゼン国とギィース殿のゼイファー国、そしてジィストル国とレクウォール国の4国しか存在しません」
「えっと、他の国には……その“紋様を持つ者”って人は、いないの?」
 レイが首を傾げながらリュシーさんに質問する。
 リュシーさんは私から視線を少し横にずらして零を見てから、いないと答えた。そして、それが何故なのかを話しだす。

「元々、この4国は1つの巨大な魔法大国でした。しかし、ある時代の王が病を患った時、数十人いる王子王女のうち誰がその国の王になるのか――という問題が起きました。その時代は、継承権は生まれた順ではなく、どれほど魔力を有していてそれを使えるか――で決められていたので、王の嫡子達の争いがこの時から始まります。……それは後に魔法戦争と言われる争いになるのですが、何十年も続く魔法戦争は終わる兆しが見えず、徐々に民が減っていくのを見た王はその事を憂い、病に冒された体ながらも彼らの戦を止めさせ、『誰か1人がこの国を治めるというのではなく、この巨大になり過ぎた国を4つに分け、それぞれの国に王を――』と宣言されました。そして、王は争いに参加しなかった4人の子供達を選びました。――この世界が始まって以来、初めて“紋様を持つ者”と呼ばれる事となった4人の王子達を、その国の王に据えたんです」
「その時分けられた国には、王子達の名がそれぞれ付けられ、『ウェーゼン』『ゼイファー』『ジィストル』『レクウォール』と言う国が誕生したんだ。そして、紋様があった王子達の血を受け継ぐ者にしか、紋様は現れなかった。だから、この4国以外の国に“紋様を持つ者”は存在しない」
 ジークさんがリュシーさんの言葉の後に付けたした。
 そんな時――。

「はいっ! 先生、質問がありまっす」

 零が右手を上げた。
「なんだね、レイ君」
 ジークさんが芝居がかった感じで聞き返す。
「他の人が王様になりたくて数十年も争ってたのに、その人達を差し置いて、何で争いに参加しなかった人が新しい国の王様になれたの?」
「あ、それは私も思った」
 零の意見に、私も頷く。
「ん〜それはだな……争いを止めた王が、『己の欲だけで力を振るう者が、民を導く良き王となれる筈も無く、資格も無い』と言われたからなんだ。だから王はその4人の王子を選んだ。――本当は、桁外れの魔力を持ち、溢れ出す魔力が紋様の形となって体の一部に現れていた事から“紋様を持つ者”と言われていた王子達を、この時だけ結束した他の王子達が4人の魔力を封じていたから、参加したくても参加出来なかったんだが……。皮肉な事に、それが原因で継承争いに参加出来なかった王子達が新しい国の王となれた訳だ」
 肩を竦めながらそう言う王子に、私達はふぅ〜んっと聞いていた。

 世界史の授業を受けている気分だ。

 零なんて、人生どうなるか分からないわぁ〜と感心していた。
「そして、各国の初代国王となった方々の紋様は、1人は左腕に。1人は右胸に。1人は背中に。そして最後の1人が、右の足にありました」
 リュシーさんが自分の体の部分を指しながら示す場所を、私と零は目で追う。


「私や透ちゃんと……同じ場所だ……」


 零は自分の右胸を押さえながらポツリと呟いた。
 私も、自分の左腕を見る。
 そんな私達を見ながら、リュシーさんは話を続けた。

「それからは、初代国王と同じ様な場所に紋章が出た者を“紋様を持つ者”。又は、“先祖返り”と呼ばれる様になりました」
 それからジークさんが、“紋様を持つ者”と言うのは王族や貴族だけで、庶民達の間では“先祖返り”として知られていると教えてくれた。
「我が国では、開国から今の時代までに、紋様を持って生れて来た方は5人程いましたが、いずれの方々も、国の中で巨大な魔力を持つ王族貴族よりも遥かに凌駕する魔力を持っておられ、その力で他国からの侵略や攻撃などを防ぎ、国を繁栄させた――と記録されています」
 他の3国も“紋様を持つ者”については同じ様なものだと教えてもらった。
 視線を向かいに座る人にチラッと向けると、目が合ったギィースさんはそれを肯定する様に笑った。
「だから、王や王族達をも凌駕する魔力を持った“紋様を持つ者”が、『国で一番貴い存在』ってわけ」
 そう言って、にっこり笑うジークさんであった。
 

inserted by FC2 system