黒騎士は“紋様を持つ者”の『守護者』――。
「守護者かぁー。なんか、響きがカッコイイね。……でもさぁ、その“紋様を持つ者”って王様より凄いんでしょう? だったら、護られる必要はないんじゃない??」
リュシーさんの言葉を聞いた零が、そんな事を言った。
その言葉にいち早く反応したのは、王子だった。
「そんな事は無いですよ? 私達黒騎士は“紋様を持つ者”にとって大切な存在です」
「なんでさ?」
「……確かに、“紋様を持つ者”は魔力や使える魔法に関して右に出る者はいません。しかし、“紋様を持つ者”も1人の人間。弱点があります」
――弱点?
「弱点って?」
目をパチパチ瞬きながら王子を見詰める零。
「“紋様を持つ者”は怪我をしても、自分の治癒魔法で治す事が出来ないんですよ」
真剣な表情で語る王子に、私と零は「は?」っと聞き返してしまった。
「…………えぇ〜と?」
「それのどこが弱点なんですか?」
魔法で自分の傷を治せないのが、なんで弱点になんの? と首を傾げる。
今まで生きて来た24年間、怪我なら傷薬をつけたりして治していた。魔法が使えなくても、それが弱点なんて思えない――そう言うと、ジークさんが「今朝話した事覚えてる?」と聞いて来た。
「え? 今朝の話??」
「そっ。腕の紋様を見ようと包帯を取ろうとしたトオルを、俺とリュシーが止めただろ? その止めた理由、覚えてる?」
あの白い家で、肩の怪我をジークさんに魔法で治してもらった時、痣も消えたと思って包帯を取ろうとしたら、2人に慌てて止めたられた事を思い出す。
そして、包帯を何故取ってはいけないのかと聞き返した私に、ジークさんはこう言ったのだ。
「えっと、確か……“紋様を持つ者”が誰なのか知れると、いろんな人らから狙われて、最悪、殺される場合がある――ですよね」
「そう。“紋様を持つ者”が狙われる理由は沢山ある。まぁ、それはまた今度話すとして……どんなに強力な魔法を使える人間であっても、隙は出来るもんだ。その隙を狙われて攻撃されるとどうなる?」
「敵は殺すつもりで攻撃してくるんです。致命的な傷を負った時、自分で自分の怪我を治せない場合――それは死に繋がります」
ジークさんと王子の言葉に、何も言えなくなる私達。
『怪我』って言うから、打撲や擦り傷みたなもんだと思っていた。
けど、怪我は怪我でも『死』に繋がる怪我って……。
いや、考えるのは止めよう。
すっかり今朝の話をド忘れしていた私。
自分の事だけど、そんなの今までの生活から考えると想像が出来なかったから、すっかり記憶の奥底に仕舞い込んで忘れていた。
チラリと視線を零に向ると、今朝の私みたいに、口をポカーンと開け、口から魂が飛び出している様な状態で石化していた。
「それにさー」
そこへ、トドメとばかりに、私の胴に両手を回したカーリィーが口を開く。
「それに、“紋様を持つ者”は『自分を治せない』他に、もう一つ弱点があるんだ」
「……それは、なんなんでしょうか? カーリィー君」
えぇーまだあるのぉ? と思いながら、顔を上げてカーリィーの顔を見ると――私の顔を見返したカーリィーは、にっと笑ってこう言った。
「『紅い月』の時期が来ると、“紋様を持つ者”は魔力が無くなるんだ」
……えぇっと??
だから? っと見返すと、私がよく理解していないと気付いたカーリィーは、「あぁ……」と言いながら付け足した。
「トールは、さっきギィースさんがレイさんの魔力を強制的に止めたのを見ただろ?」
その言葉に、私はグッタリとギィースさんにもたれ掛かる、先程の零を思い出し、コクッと頷く。
零はあの時の事を思い出しているのか、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしている。
「あそこまで酷くは無いと思うけど、魔力が無くなる『紅い月』の時期になると、魔法を使えなくなるどころか、動けなくなるんだ」
「「マジで!?」」
零と重なる様に聞き返すと、「うん、マジで」と言われてしまった。
今まで魔法なんて使った事なかったし、別に使えなくてもいいやと思っていた。
――んがっ! 動けなくなるってどういう事!?
って言うか、紅い月ってなんですか?
そう聞くと、リュシーさんが言うには――。
“紋様を持つ者”だけが、月が紅く見える時期があるらしい。そしてその時になると、何故か身体中の魔力が無くなってしまうらしく、魔法を使うどころか思うようにも動けなくなってしまうとの事。
しかも、その『紅い月』は年に一度の時もあれば、数か月に一度と言う時もあり、いつそうなるのか分からないのだと言われてしまった。
まとめると、
1、“紋様を持つ者”(私と零)は大勢の人間から狙われる。
2、殺すつもりで襲ってくる敵の攻撃を受けて怪我をしても、自分で魔法を使って治す事が出来ない。
3、“紋様を持つ者”だけが見える紅い月。その時は魔力が無くなって、動けなくなる。
――結果。
誰よりも巨大な魔力を持って高度な魔法を使う事が出来る『最強』の存在らしが、『最弱』にもなるらしい。
「だから、大人しく俺達に護られてて」
ニコッと笑うカーリィー。
……あぁ、カーリィーのお尻から、見えるはずのない尻尾がパタパタと動いている様に見える。
周りを見ると、皆真剣な表情で私を見ていた。
『護られてて』
皆、思う事は同じらしい。
零を見ると、少し困った様な表情をしていたが、ギィースさんに頭を撫でられながら「私達が付いています」と言う言葉に、ちょっと照れている様子。
「……えっとぉ〜。それでは、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
ペコッと頭を下げる。
「まっかせとけ!」
満面の笑顔で、私の体に回している腕に力を入れ、ギューッと抱き締めて来たカーリィー。
ちょっと苦しくて恥ずかしかったけど、でも、その腕はとても温かくて――安心できた。