第7章 邂逅 13

 
「王城で、何かあったの?」
 転移魔法で急に帰って来た私達を見たリュシーさん(姿はデュレインさんに変身中)が、心配そうな顔をして駆け寄って来きた。
「リュシーさん……あの、実は……」
 今までの事を説明し終わった後、リュシーさんは、床に倒れているハーシェルを見詰めながら――。

「私を元の姿に戻して」

 デュレインさんの姿から、元の自分の姿に戻して欲しいと言った。
「それと、トオルが着ているそのドレスや宝石類も、全部かして」
「え? もしかしてリュシーさん……」
「そう、これから私自身が、王城に行くわ」
「で、でも……王城には行きたくないって」
「うん、本当は……行きたくない」
 俯きながらそう言うリュシーさんに、それじゃあ行かなければいいと言うが、首を振られる。
「今、王城からジークや私がいなくなれば、そこで倒れている王妃の契約者――『影』を奪ってしまったのが、私達だと気付かれてしまうでしょ?」
「それは……そうだけど」


 あんな、リュシーさんを蔑ろにする人達が集まる場所に、心身共に傷ついているリュシーさんを行かせたくはない。


 もう一度私が王城に行くと言えば、それも首を振られた。
 今度は今までと違って、私では対処出来無いことが起こるかもしれないから、と。
 確かに、何も知らない私が行くよりは、リュシーさん本人が行った方がいいのかもしれない。
「……わかりました」
「それじゃあ、早速着替えましょう」
 時間が無いと言われ、着替える為に私とリュシーさんの2人で部屋を移動した。




 着替は、2階にあるリュシーさんの部屋で行った。
 部屋に入って扉を閉めると、まず、髪飾りを外したりその他の装飾品を外し、それから着ているドレスを脱ぐ。
「はぁ。もっと着ていたかったなぁ」
 今まで着ていたドレスを見詰めながら、ふと、横を見れば。
「……おぉっ」
 バッサバッサと着ている服を脱ぎ捨てる姿に、惚れ惚れする。
 脱ぎ捨てていく深緑色のメイド服は、リュシーさんの体から離れると、魔法が解けて元の服に変わっていく。


 それにしても、いい脱ぎっぷりです、リュシーさん。


 自前の魔法服に手を通し、ブーツを履き終えた私がもう一度ドレスを見詰めていると、
「そんなに気に入ったのなら、又私に変身して着ればいいよ」
 苦笑したリュシーさんが、そう言ってくれた。
「えっ!? いいんですか?」
「うん」
「やったぁ〜♪ ……っと、それじゃあ、元の姿に戻しますよ?」
 嬉しい約束を取り付けられてルンルン気分になりながら、リュシーさんに手を翳(かざ)して、魔法を解く。
 元に戻ったリュシーさんは、私が脱いだドレスを手早く着ていく。
「あ、リュシーさん。ちょっとここに座って下さい」
 着替え終えたリュシーさんを手招きして、化粧台の前の椅子に座らせる。
「これじゃあ、ちょっと外には行けないので……」
 バラバラの長さに切られた髪に、手を添える。


 短い髪が、1番長い胸元あたりの髪の長さに合うようにイメージしながら、魔法を掛ける。


 頭頂部から胸元まで、一気に手を滑らせると――。
 バラバラだった髪の長さが、均一の長さに揃っていた。
 元に戻した青銀色のツヤツヤサラサラのロングヘアーを、更に魔法を使って(手先が不器用なので魔法でやった)結い上げていく。
 イメージした通りの可愛いアップスタイルが出来上がる。
 ジークの瞳の色と同色の宝石が付いた髪飾りを付け、化粧台の上に並べられた数種類のコスメを使い、メイクを施す。
 そして、最後の作業として――。


 黒い眼帯を、リュシーさんの右目に当てる。


 髪型が崩れないように気を付けながら、紐を後頭部で結んだ。
「これでよしっと」
 眼帯に手を添えて、鏡に映る自分を見詰めるリュシーさんに「どうですか?」と問い掛ければ、凄いと驚かれ、気に入ってもらえましたかと聞けば、
「うん。――それに……髪が元に戻って、とっても嬉しい」
 と、はにかむ様に笑うではないか!

 う・お・お・お・お!

 はにかむ姿のリュシーさんなんて、超貴重な光景なんですけどっ!
 携帯が今手元にあったら、この、めちゃプリティーなリュシーさんを写メしまくっていたのに……残念!!
 携帯が無いことを残念に思いながら、私は右手をリュシーさんに差し出した。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
 私の右手を取って立ち上がったリュシーさんは、いつもの表情に戻ってしまったが、それでも、その身に纏う雰囲気は柔らかく――穏やかなものであった。
「そう言えば……」
「ん? どうかしました?」
「急に、ジークの事を呼び捨てにしていたけど」
「あぁ、それは――中身が私とは言え、婚約者であるリュシーさんが自分の事を『さん』付けで呼ぶのはおかしいからって……それで、呼び捨てなったんですよ」
 それからずっと呼び捨てで呼んでいたら、今はもうすっかり慣れてしまいましたと言えば、「……そうなの」と、俯きがちになりながらそう呟くリュシーさん。
 一体どうしたんだ?
「あ、あのぉ〜……リュシーさ」
「トオル」
「うおっ!?」
 俯く顔を覗こうとしたら急に顔を上げたので、頭突きされそうになって焦った。
「あっぶなぁー……」
「トオル」
「は、はい?」
「私も」
「ん?」
「私も、呼び捨てで」
「呼び捨て?」
 意味が分からなくて首を傾げれば――。


「私の事も、『リュシー』と……呼び捨てで呼んで構わない」


 真剣に、でも耳を真っ赤にしながらそう言ったリュシーさんは、呆ける私を残してスタスタと早歩きで部屋を出て行った。
「……へ?」
 誰もいなくなった部屋で1人で呆け、漸く言われた言葉を理解した瞬間。
「エヘヘっ。ちょっと待ってよ、リュシー」



 過去の――少女なリュシーさんとの距離が、ググンっと近付いたように感じた。
 

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