「アーッハッハッハッハッハッ!」
ギルドの2階にある、とある部屋の大きなソファーの上で――。
レキは子犬の姿で目を大きく見開きながらプルプル震え、ミシェルは目に涙を溜めながら体を折り曲げて笑い転げていた。
「だ、ダメだ……オレ、笑い死ぬ……ぶっはぁーっ!」
「ヒィーっ、ヒィーっ……っっぷぅーっ!!」
なんとか笑いが収まってきても、とある人物を見て、また笑いがぶり返していた。
そこへ、絶対零度の冷たい声が発せられる。
「ミシェル、わんころ…………それ以上笑ったら氷漬けにするぞ」
「だ、だって! あんたのその姿を見て……ぐふっ……笑うなって言う方が……ぶふっ……む、無理…………ぶはっ!」
ミシェルは顔をヒクヒクさせながら喋っていたが、机の上をバシバシ叩きながら腹を抱えて笑い出した。
レキも同じく、小さな体をひっくり返しながら爆笑する。
近くにいたルヴィーは、顔を背けるようにして、体を震わせながら笑っていた。
そんな1人と2匹を、額に青筋を浮かべたロズウェルドが冷ややかな目でもって眺めていた。
そして、その鋭い視線をそのまま私に向ける。
絶対零度の視線を向けられるも、私はそんな視線を無視しつつ、『完成作品』を腕を組んで眺めた。
ポニーテールを解いて長い髪を下ろし、頭には白くて大きな帽子を被っている。
髪の毛は、中間から毛先にかけてゆるく巻いていて、男のくせに女顔負けの綺麗系の顔を持つその顔は、零にメイクを施された結果――。
誰もが振り向くのではないかと思えるほど、美しさに磨きがかかっていた。
服は、いつもの動きやすい服を脱がされ、チュールレースとリボンがふんだんに使われた、白いペチコートドレスを着ていた。首には、喉仏を隠すためのスカーフを巻いている。
因みに、手に持っている日傘や、履いているセパレートパンプスも白である。
そして、ムカツクくらい細くて長い美脚は、ムダ毛の1本もなかった。
そう、ロズウェルドは女装(無理やり)をしていたのであった。
私は深窓の令嬢っぽい男から、良家のご令嬢に見事変身をとげたロズウェルドを見ながら、うむ。と頷き、零に向かって親指を立てた。
「グッジョブ!」
「何がぐっじょぶだ!」
親指を立たせて「いい仕事をしたね」と笑い合う私達を見ながら、ロズウェルドがキレた。
「もぅ〜、そんなに怒ることないじゃん」
「人の体の自由を奪って、こんな格好をさせておいて、怒るなと言う方が無理がある!」
「だぁ〜って、仕方がないじゃん? 仕事なんだから」
溯ること2時間程前――。
何か新しい依頼が入っていないかとチィッティちゃんの執務室に行けば、「あっ、ちょーどいい所に来てくれましたぁ♪」と言われた。
なんでも、裕福層の女性を狙った暴行事件が多発していて、その犯人を捕まえて欲しいという依頼が今入ってきた所であったらしい。
私はその依頼内容と報酬金額を聞いて、「俺、ソレやります!」とチィッティちゃんの手から奪うようにして取ると、ロズウェルドがいる部屋に一目散に戻り、「今度の依頼は何?」と言うロズウェルドに、今回の依頼書を見せた。
暫く依頼書の中身を見ていたロズウェルドが、「……この囮役の女性を誰がやるんだ」と聞いてきたので、私は指をさしながら「え? そりゃあ、もち、ロズウェルドでしょ?」と言ったら、「何で男の俺が、そんな事をしなきゃならないんだー!」と依頼書を破り捨てて部屋から出て行こうとしたので、私はロズウェルドの体の自由を魔法で奪った。
立ったまま動きを止めたロズウェルドに、ウフフフと笑いながら近寄る。
「な、何を……」
「逃がさないよ?」
にっこりと笑いながら、ロズウェルドの顔に向かってゆっくりと腕を伸ばし、頭上の髪紐をスルリと解いた。
パサッと落ちてきた髪の一房を、クルクルと指に絡めながらロズウェルドを見上げる。
うむ。どこからどう見ても、女である。
今回の報奨金額は、普通の仕事の2倍以上なのだ。
何故なら、依頼人が金持ちだから。
自分がお嬢様の様な服を着て囮役をするより、ロズウェルドに女装をさせた方が、成功率もググンッと上がるだろう。
ハッキリ言えば、報奨金の金額が魅力的で、ロズウェルドの男としての矜持なんかどうでも良かったのである。
「さぁ〜、今から女になってもらうよ?」
ニタリと笑いながら、私はレキに服を買って来るように頼み、隣の部屋にいる零を呼びつけて、事情を説明してメイクを頼んだ。
こうして、『ロズウェルド改造計画』が行われたのであった。
頬を染めて俯くその姿は、儚く、可憐で、女の私が見ても護ってあげたくなる様な感じであるが、
「あ、喋る時は裏声でよろしく!」
そう、一言口を開けば、声で男だとバレてしまう。
それはいかん。
私がそう言うと、俯いていたロズウェルドが顔を上げた。
そして、微笑む様にして「えぇ、分かったわ」と裏声で頷いた。
お? ヤル気になってくれた?
それじゃあヨロシク! と魔法を解いた私がバカだった。
体が自由いになったロズウェルドは、惚れ惚れするような微笑を私に向けながら近付いて来ると、右手を私に伸ばし――ガシッと頭を掴んだ。
アイアンクロー!?
そう思ったときには、その細い指にどれだけ力が入っているんですか!? と思えるぐらい、ギリギリと頭を締め上げられる。
「いだだだだっ! い、いた、痛いっ! 痛いってばぁ!!」
脳天締めするロズウェルドの腕を掴みながら、涙目で見上げれば、ロズウェルドは先ほどと変わらぬ微笑で私を見下ろしていた。
「私だけ、こんな屈辱を受けるなんて許さないわ。やるならトオル、貴方も道連れよ?」
ロズウェルドはそう言うと、私の頭を掴んだまま、もう一方の手をヴィンスから貰った腕輪に置いた。
その行動に、ロズウェルドが何をしようとしているのか気付き、私は体を捻るようにして逃れようとしたのだが……遅かった。
「汝の魔力を封じる事を、ロズウェルド・オルデイロの名によって命じる」
ロズウェルドがそう言った途端、私の体は淡い黄緑色の光に包み込まれ――ちびになっていた。
「何すんだよ! ……って、か、体が動かない!?」
「フフフ。私の時と同じく、体の自由を奪わせてもらったの」
頭から、ロズウェルドの手が離れた。
ミシミシと音がしそうな程、圧迫されていた手から開放されてホッとしたのも束の間、頭上から響くロズウェルドの裏声からは、不穏なものが含まれている様な気がした。
ビクビクしながら顔を上げると――。
「さぁ、トオル。お着替えしましょ?」
体の芯から凍りつくほどの、冷めた笑いを浮かべるロズウェルドがそこにいた。
「むぎゃぁぁぁぁ!?」
そして、私がロズウェルドにしたのと同じように、問答無用と着ている服をひん剥かれた。