部長の所に「はい、何でしょう?」と行けば、細かい文字がビッシリと書かれたメモ用紙を渡された。
何だろうこれ? とメモ用紙に視線を落としていると、
「そこに書いてあるモノを、資料室から持ってきて欲しいんだ」
部長はニコッと笑ってそう言った。
「えぇーっと……これを、全部……ですか?」
「うん。悪いんだけど、今日中にお願い出来るかな? 明日の午後の会議に、急に使う事になってしまってね」
今日中に資料の中身に目を通しておきたいんだ、と言う部長。
「あの、こんなに数が多いと、探すのに少し時間が掛かってしまいますが」
だって、全く別の階の資料室に置いているものまで、ここに書かれているのだ。
「京野さん1人に頼むんだから、それは仕方がないよ。今日中に私の元に届けてくれればいいから」
大変だと思うけど、やってくれるかな? と部長に言われた私。
もちろん、「嫌です」なんて言えるはずもなく……。
「分かりました」
「宜しく頼むよ」
「はい。それでは失礼します」
私は溜息を吐きたい気持ちをグッと堪えて、部長から資料室の鍵を預かると、自分の席へ戻った。
椅子に座って漸く「はふぅ〜っ」と息を出すと、あっちゃんに「どしたの?」と聞かれた。
一旦パソコンの電源を落とし、あっちゃんにメモの中身を見せながら説明してあげたら、「うわぁ〜、ご愁傷様」と言われた。
「……それじゃ、行ってきます」
「ガンバッ!」
その言葉に頷きながら私は席を立つ。
そして、メモに書かれている資料を取りに行くべく、歩き出すのであった。
「う゛ぅ〜っ。お・も・いっ!」
頼まれモノを探して早2時間が過ぎた。
私は、分厚いバインダーが何冊も入ったダンボールを両手でガッチリ持ちながら、えっちらほっちら階段を上っていた。
エレベーターを使えば早いのだが、今日はエレベーターの安全点検日の為使えない。
なんてツイてない日のよっ!
鼻息荒く階段を上る私。
今は誰にも会いたくないわ――と思っていると、漸く目的の階にまで辿り着いた。
「ぐはぁーっ……腰が痛い」
一旦ダンボールを足元に置き、腰をトントン叩く。
背筋を伸ばしてから、胸元のポケットに入れていたメモを取り出す。
「えぇーっと、次はこの階の第二資料室ね」
メモをもう1度胸ポケットに入れると、「ふんぬっ!」と掛け声を掛けて重いダンボールを持ち上げる。
がに股になりつつ、長い廊下を歩き続ける。こんな姿、絶対他人には見られたくない。
ぜぇーっ、はぁーっ、と言いながら5分ほど歩いていると、プレートに『第二資料室』と書かれた部屋のドアが見えて来た。
「こっ、ここだわ!」
私は扉の前に立つと、周りに誰もいない事をもう1度確認してから、
ダンッ!
ダンボールを思いっきりドアにくっ付けた。
それから右足を上げてドアに膝をくっ付けると、ダンボールの底を上げた足の上に置いて、ずり落ちない様にした。
私は自分の胸と足とドアを使ってダンボールを落ちない様に固定すると、右手だけ離してスカートのポケットに入れていた鍵の束を取ろうとした。
「よっ、ほっ、はっ……取れたぁ!」
ポケットの入り口で引っ掛かっていた鍵を取るのに、四苦八苦していたが、何とか取れた。
私はそのままの体勢で右手だけを動かし、鍵を開けようとしたのだが――。
ガチャッ。
「え?」
突然ドアノブが回ったかと思ったら、ドアが内側に開いた。
思いっきり前のめりになってドアに体重を掛けていたので、当然――。
「うひゃあぁ〜!?」
私は右足を上げた体勢のまま、資料室の中へ倒れ込んだ。