高校生編・恐怖の風紀委員 8

 
 ――あれから1週間が経った。


 あの後、先輩達はボクシング部を強制的に退部させられて、何故か柔道部に入っていた。
 ハナ先が、ボクシング部の先生に圧力を掛けたと言う噂が流れていた。
 長い髪から坊主頭になった先輩達。柔道部でハナ先に扱かれているらしい。
 学校内では『1年の女子に負けた奴ら』と、かなりの噂になっていた。



「ねぇ、零。そう言えばさぁ、先輩達と試合する前に、あんたハナ先に何を言ってたの?」
 私はサンドイッチを食べながら、隣で透にベッタリくっついている零に気になっていた事を聞いた。
「あぁ、あれ? 別に大した事じゃないよ」
 そう言って肩を竦める。
「先輩達が斉藤を恫喝してたから、風紀委員である私が止めさせようとしたら、急に難癖付けて襲い掛かって来たって言ったの。それで、危なくなった私を透ちゃんが助けてくれていたんですぅ〜って」
 別に、お前は危なくも何ともなかったじゃないかと思うも、そこはあえて突っ込まず。
「んで、先輩達が透ちゃん達に負けたら、私達の言う事を何でも聞く事になってるって言ったの」
 前半の説明も微妙な内容だったが、後半は全く違う内容になっていた。
「……負けたら『今後一切斉藤に関わらない』じゃなかった?」
「そうだけど、それじゃつまんないじゃん?」
「つまんないって……」
「で、透ちゃん達が勝ったら『何でも言う事を聞く権利』を、先生にあげるって言ったんだ」
「つまり、先輩達を売ったのね。……あぁ、だから先輩達は柔道部に入ったわけか」
「透ちゃんを貶(けな)した罪は重いわ」
 ニッコリ笑う零が悪魔に見えた瞬間であった。


 それから数時間後――。

「おぉーい。ちょっと話があっからこっちに来い」
 部活が終わって柔軟体操をしている時、ゴリ先が私達を呼んだ。
 首を傾げつつ、皆でゴリ先の元へダラダラと歩く。
「話って何ですか?」
「練習試合が決まったとか!?」
「もしかして、この前のテストの点数が悪かった……とか?」
 それぞれ思い思いの事を聞くが、ゴリ先は違うと手を横に振った。
 そして溜息1つ吐き、こう言った。


「本日付で、お前ら全員、正式に風紀委員になったから」


 ……はい?

『………………』
 一同沈黙。
 ゴリ先が何を言っているのか分からなかった。

「ゴッちゃん……正式って何? 確か、今回は試験的なものだって言ってなかった?」
 ナデが顔を引き攣らせながらゴリ先に聞く。
「ん? そりゃーお前、先週の事が原因だろうな」
 その言葉に、透とナデが固まる。
 先輩達との試合は瞬く間に全校生徒に広がり、先生達でも知らない人はいないほどになっていた。
「普通の生徒がガラの悪い奴に注意するには勇気がいるが、お前らだったら大丈夫だろうと言う事になってな」
 反論しようにも出来ない私達。確かに、先輩だろうがガラが悪かろうが、ビクつく様な人間はここにはいない。
「それに、華盛先生が『是非、女子空手部に風紀委員を!』と仰られてなぁ」

 華盛先生の言葉が元で、『女子空手部兼風紀委員』が全職員一致で採決された。

 その言葉に、
「あの時、斉藤を見なければ……」
「なんであんな事したんだ私……」
 ナデと透が項垂れた。


 それから卒業するまでの3年間、私達は風紀委員として働く事になったのであった。

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