――あれから1週間が経った。
あの後、先輩達はボクシング部を強制的に退部させられて、何故か柔道部に入っていた。
ハナ先が、ボクシング部の先生に圧力を掛けたと言う噂が流れていた。
長い髪から坊主頭になった先輩達。柔道部でハナ先に扱かれているらしい。
学校内では『1年の女子に負けた奴ら』と、かなりの噂になっていた。
「ねぇ、零。そう言えばさぁ、先輩達と試合する前に、あんたハナ先に何を言ってたの?」
私はサンドイッチを食べながら、隣で透にベッタリくっついている零に気になっていた事を聞いた。
「あぁ、あれ? 別に大した事じゃないよ」
そう言って肩を竦める。
「先輩達が斉藤を恫喝してたから、風紀委員である私が止めさせようとしたら、急に難癖付けて襲い掛かって来たって言ったの。それで、危なくなった私を透ちゃんが助けてくれていたんですぅ〜って」
別に、お前は危なくも何ともなかったじゃないかと思うも、そこはあえて突っ込まず。
「んで、先輩達が透ちゃん達に負けたら、私達の言う事を何でも聞く事になってるって言ったの」
前半の説明も微妙な内容だったが、後半は全く違う内容になっていた。
「……負けたら『今後一切斉藤に関わらない』じゃなかった?」
「そうだけど、それじゃつまんないじゃん?」
「つまんないって……」
「で、透ちゃん達が勝ったら『何でも言う事を聞く権利』を、先生にあげるって言ったんだ」
「つまり、先輩達を売ったのね。……あぁ、だから先輩達は柔道部に入ったわけか」
「透ちゃんを貶(けな)した罪は重いわ」
ニッコリ笑う零が悪魔に見えた瞬間であった。
それから数時間後――。
「おぉーい。ちょっと話があっからこっちに来い」
部活が終わって柔軟体操をしている時、ゴリ先が私達を呼んだ。
首を傾げつつ、皆でゴリ先の元へダラダラと歩く。
「話って何ですか?」
「練習試合が決まったとか!?」
「もしかして、この前のテストの点数が悪かった……とか?」
それぞれ思い思いの事を聞くが、ゴリ先は違うと手を横に振った。
そして溜息1つ吐き、こう言った。
「本日付で、お前ら全員、正式に風紀委員になったから」
……はい?
『………………』
一同沈黙。
ゴリ先が何を言っているのか分からなかった。
「ゴッちゃん……正式って何? 確か、今回は試験的なものだって言ってなかった?」
ナデが顔を引き攣らせながらゴリ先に聞く。
「ん? そりゃーお前、先週の事が原因だろうな」
その言葉に、透とナデが固まる。
先輩達との試合は瞬く間に全校生徒に広がり、先生達でも知らない人はいないほどになっていた。
「普通の生徒がガラの悪い奴に注意するには勇気がいるが、お前らだったら大丈夫だろうと言う事になってな」
反論しようにも出来ない私達。確かに、先輩だろうがガラが悪かろうが、ビクつく様な人間はここにはいない。
「それに、華盛先生が『是非、女子空手部に風紀委員を!』と仰られてなぁ」
華盛先生の言葉が元で、『女子空手部兼風紀委員』が全職員一致で採決された。
その言葉に、
「あの時、斉藤を見なければ……」
「なんであんな事したんだ私……」
ナデと透が項垂れた。
それから卒業するまでの3年間、私達は風紀委員として働く事になったのであった。