第5章 ギルド 04

 
 騎士訓練場にて魔法の練習をしていた私達。
 零とジークさんの3人で大きな木の根元で休憩していたのだが、数人の騎士と何やら話しあっていたリュシーさんに仕事が入った為に「今日の所は、これで終わりとしましょう」と言われ、その日の訓練は終了となった。
 リュシーさんは、近くにいたジークさんに私達を家まで送るように言い付けると、数人の騎士達と城へ戻って行った。
「んじゃ、行くか」
 ジークさんは、嫌な顔一つせずに私達を家にまで送ってくれた。
 私達の服が入った大きな袋を左手に3つ持ち、右手に1つ持ちながら手綱を持って馬を操る。人間業じゃない。
 それでも、私達を気遣ってゆっくり馬を走らせるジークさんに、私達は行きと同じくへっぴり腰で付いて行った。
 家に着いて馬から降りると、ジークさんは私達に荷物を手渡し、2頭の馬を馬小屋に置きに行った。
「あれ? いつもより早いね」
 蹄の音を聞き付けたらしいフィードが玄関から顔を出し、私達の早い帰りに首を傾げる。
「リュシーさんに仕事が入っちゃって、今日は早く終わったの」
「ふぅーん」
 零がフィードに説明していると、ジークさんが戻って来た。
「それじゃあ、俺は戻るな」
「あ、わざわざ送ってくれて、ありがとうございました」
「ジークさん、服ありがとぉー♪」
「あぁ、それじゃあな」
 ジークさんは鐙(あぶみ)に片足を掛けてヒョイと馬に乗ると、私達に片手を振りながら颯爽と駆けて行った。

 むぅーん。様になりますなぁ〜。

 と、思いながら駆けて行く後ろ姿を眺めていると、扉に背中を預けているフィードが「ねぇ、それなに?」と、私達が持っている大きな袋を指さした。
「む? これ?」
「うん。それ」
 フィードはこくこくと頷く。
「これは、ジークさんに作ってもらった服だよ」
「あぁ、伸び縮み自由な服ね。漸く出来たんだ」
「そ!」
「ねぇー透ちゃん。早速着てみようよ!」
「お、いいねぇ」
 零の提案に賛成して、袋を持って「着替えましょかぁ〜」と家に入ってから、「ん?」と違和感に気付く。

 何かが足りない。

 はて? と思いつつ、周りを見回してある事に気づく。
「ねえ、デュレインさんは?」
 いつもなら私達が帰って来ると、いち早く迎えに来る人が、家から出て来ないのだ。
「あぁ、デュレインなら、用事があるからって出掛けて行った」
「そうなんだ。……どこに行くとか言ってた?」
「いや、そこまでは言ってない。唯、帰りが少し遅くなるかもしれないとは言っていたけどね」
 肩を竦める様にしてそう言ったフィードに、私と零は分かったと頷き、新しい服に着替える為に家へと入った。



 作ってもらった真新しい服に着替え終えてから居間へと行くと、
「透ちゃん、カッコいい!」
 黒い長袖の上に白の半袖Tシャツを重ね着して、黒いストレートパンツに革製の黒のブーツ。そして黒のジップアップジャケットという、黒を基調とした服装。
 そんな私を見た零が、開口一番そう言った。
「……それはどうも」
 小さい頃から、可愛いと言う言葉を聞いた事が無い私。別に、言われたいとも思わないが。
「零は……何て言うか……これまた可愛い格好だね」
「ん? そうかなぁ?」
 キョロキョロと自分を見る零の服装は、白いハイネックの服に黒のノースリーブパーカー(帽子の部分には、何故か猫耳が)。膝上程の黒のハーフパンツに、私と同じ革製の黒のブーツを履いて、おまけに、毛糸のボンボンが付いた可愛い黒のヒップバック。という、零も黒を基調とした服装であった。
 しかし、私のボーイッシュな服装とは違い、どこか可愛い『子供服』を着ている感じがする零を見た私は、

「……零、メッチャ可愛い!!」

 零の頭をナデナデしながら抱きしめた。
「にゃ〜ん。透ちゃん♪」
 そんな私に、零も嬉しそうに抱き付いて来る。
 零の服装も雰囲気も、全部“プリティー”で、もろ、私好みなのだ!
 そこへ、零の可愛さにデレっとしている私と、私にくっついて頬擦りしている零を半眼で見ていた人物が――。


「……なに、あんたらって、そっちの趣味が?」


 と、ちょっと引き気味な感じのフィード。
「ん? ……まっさかぁ!? 私、こう見えて、可愛いものが大好きだってだけで、女好きでは決っしてありません! 零だってそうだよ」
 口を尖らせてそう言ってから、零にも「んね?」っと確認&催促すると、コイツは――。


「私は、世界で1番透ちゃんが大好きよ?」


 と、とんでも発言をしてくれた。
「「………………」」
 いやね? 確かに、いつも私の事「透ちゃん大好きぃ〜♪」と言っているけど、今この場ではそう言うべきではないだろうよ?
「レイはトールが大好きだって。よかったね? トール」
「………………」
 いつまでも私にくっ付いている零を見て、急にフィードの機嫌が悪くなった。
 顔は笑っているのだが、声のトーンが1段低くなっている。そして、私を見る目が冷ややかな、敵意みたいなものが滲み出て……る?

 ……何ゆえ?

 顔を引き攣らせて固まっていると、フィードは自分の感情を押さえる様に、俯きながら「はぁ〜っ」と息を1つ吐いた。
「……それで? レイとトールは、新しい服を着たはいいけど、これからどうするの」
 次に顔を上げた時は、いつものフィードに戻っていた。
「え? あ、んっと……いや、これからは、何も無いよ」
「ふーん。……それじゃあ、今日は僕が召喚魔法や、獣人について教えてあげようか?」
「え? 教えてくれるの?」
「うん、いいよ。レイ達がこの世界に召喚されてしまった原因……知りたいでしょう?」
 その言葉に、私と零はコクンと頷く。
「それじゃあ、ちょっと散らかってるけど、僕の部屋でやろうか。ちょうど、レイ達が帰って来るまで、どんな召喚魔法を使用したのか調べていて、資料も置いてあるし」
 そう言うと、準備が出来たら僕の部屋に来てと言って、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。
 その場に残された私達は、抱き合ったまま、しばしフィードの後ろ姿を眺めていた。



「ねぇ、零。ちょっと相談があるんだ」
「ん? 相談?」
 私は、フィードの部屋に行く前に、朝食を食べ終わった時に思い出した事を話す。
「実はさ、年齢性別関係なく、実力があれば入れて、割り当てられる仕事によって違うらしいんだけど、給料がかなり高い仕事場を見つけたんだよね」
「え!? マジで?」
 どこそれ? と興奮気味に聞いて来る零を「まぁ、落ち着け」と抑える。
「いい条件なんだけど、ひとつ問題があるの」
「問題? 何それ??」
「そこに入るには、腕に自信がないと入れない……つまり、格闘が出来て、魔法とか使えて、なお且つそんじょそこらの男共より強くなければいけないってわけ」
「ふむふむ」
「そう言う条件の仕事に就くとなると、大きな怪我を負う可能性がある仕事もしなきゃならなくなるかもしれない」
「うん。そうだね」
「そうなると、だ。“紋様を持つ者”である私達の守護者、リュシーさんやギィースさんが、そんな仕事を許すと思う?」
「……思わない」
 首をフリフリ振って、零は絶対無理だねと呟く。


 そう、私達を異常と言えるぐらい過保護に扱うあの人達が、許すわけ無いのだ。


「でっしょう? だから、ここはあえて何も言わずに、そこを受けようと思うんだ」
「うん。それがいいと思うよ」
 普通なら、そんな危ない仕事、止めた方がいいよ! と言うのだろうが、零はそんな事は言わない。
 自分達なら絶対大丈夫だと言う、確信があるからだ。
「零はどうする?」
「もち、一緒に受けるに決まってるよ!」
「OK。んじゃ、明日の朝食を食べたら、直ぐにそこに行こう」
「うん!」
 リュシーさん達にバレたら大変だ。行動を起こすなら、直ぐがいいだろう。善は急げだ!
「それじゃあ、仕事の事も決まったし、そろそろフィードの所にでも行こうか」
 首を回しながら、部屋を出ようとした所で零に呼び止められる。
「あ、透ちゃん。そう言えば、明日行く所は、何て言う所なの?」
 首を傾げながらそう聞いて来る零に、私はドアに手を掛け、後ろにいる零に振り向きながらこう言った。


 そう、そこは、腕に自信がある人間が、自分を売り込みに行く場所――。


「ギルド」
 

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